第463話 説教



 私としたことがマズった。


 コングを起動させに秘密の地下倉庫へ向かったまではいい。

 残念なことに、アデルが隠れそうな場所として建屋が荒らされていたのだ。


 地下倉庫へ行ったとしても、コングには目もくれないでしょうけど。強力な味方を起動できないのは手痛い。


 植樹に隠れて様子をうかがっていると、足音がこっちに近づいてきた。


 このままでは発見されてしまう!


 腰に吊してあるレーザーガンを握る。


 残弾はMAXの五〇。だけど、ここでドンパチするば新手が駆けつけるのは確実。


 予備のエネルギーパック持ってきてないのよねぇ。極力衝突は避けたいところだけど……。


 大きくなる足音。


 覚悟を決めて植樹の陰から飛び出そうとしたら、パァンと弾ける音がした。


 何が起こっているの?


 植樹の陰から顔を出そうとすると、何かが身体に巻きついた。


 次の瞬間、グンと景色が勢いよく落下していく。

 気がつくと建屋の上にへたり込んでいた。


「大丈夫?」

 鼻眼鏡をかけた見覚えのある顔が言う。ホエルン・フォーシュルンド大佐――最強の駒クイーンだ。


「え、ええ。おかげで助かったわ」


「それで、我らが女王陛下、次はいかなる行動に移ればいいのかしら?」


「国王アデルの警護をお願いできる」


「それも大切だけど、エレナ様は?」


「私なら一人でどうとでもなるわ。それなりに訓練は受けてきたし」


 そう言うと、鬼教官は怪訝な顔をした。

「本人を前に言うのもなんだけど、あなた、一人じゃ死ぬわよ」


 薄々は感じていたけど、こうもバッサリと断言されると心苦しいものがある。


「いざという時は逃げればいいし、案外なんとかなるんじゃない?」


戦死者ヒストリーに載る弱兵の好きそうな言葉ね。手持ちはレーザーガンだけでしょう」


「それだけじゃないわ。護身用の剣もある」


「……剣ねぇ。十や二十の敵ならどうとでもなるけど、一〇〇はしんどいかな。レーザーガンとあわせても撃破数は一〇〇が限界ね」


「…………」


 くやしいけど、ご指摘通りだ。


「ここね。いま二千近く攻めてきているの。この意味わかる?」


「でも二千全部を相手にするわけじゃないでしょう」


「…………あなた、私の講義ちゃんと聞いてた?」


「……かなり昔のことなので……忘れました」


「今回のこれは制圧戦よ。浸透作戦みたいに部隊を小分けにしないわ。高い火力で虱潰しらみつぶしに叩いていく。掃討作戦の各個撃破スタイルに近いわね。それでいて目指す場所は限られている。狙う的もね。おそらく、あなたは的の一つ。そんな的が戦場を一人でうろついている。指揮官だったらどうする?」


「単体でうろついている的をまっ先に始末します」


「そうなるわよね。そんな簡単な……」


 ホエルン大佐が言葉をつづけようとしたところで、矢が飛んできた。

 ベテラン軍人は振り向くこともなく、無造作に鞭を握った腕を振るう。それだけの動きで中空の矢が折られ、そして射手の頭が爆ぜた。


「んもう、うるさいわねぇ」


「あのう、それで私にどうしろと?」


「そこから先は自分で考えなさい」


 そう言い残すとベテラン軍人は眼下に飛び降りた。そのまま、あつまった雑兵どもを片っ端から倒していく。

 その圧倒的なまでの鬼っぷりに、優に一〇〇はいたであろう兵士が瞬く間にしかばねになった。


 恐ろしいまでの火力だ。さすがは連邦の誇る精兵のエリート集団〈ゴースト〉の隊長。


 辺りが静かになったので、私は屋根を飛び跳ねて、玉座の間のある王宮へ向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る