第462話 subroutine ホエルン_証拠隠滅


◇◇◇ ホエルン視点 ◇◇◇



 帝室令嬢は実に聡明な御方だ。わかっておられる。

 私というを王城に残しておいてくれた。


「それにしてもりない連中ね。あれだけ痛い目にあっていながら、まだパパの足を引っぱろうなんて」


 ここで活躍すれば汚名返上できるでしょう。

 バルコフという老人を逃し、イスカという無能に乱暴されかけた。それまで全戦不敗だった私の株は、この惑星に来てからというもの暴落しつづけている。

 ここらで有能であることを示さねば! そして、ご褒美の〝にゃんにゃん〟を!


 そんな魂胆もあって、いつもより張り切る。


 まずは王城の屋根にのぼり戦況確認。


 正面から我が物顔で入ってくる兵士。それとは別に屋根を走る怪しい一団を発見した。

 宇宙軍で使用する光学迷彩のマントみたいなものを羽織っている。周囲の景色に溶け込んでいるものの、宇宙軍のそれには及ばない。完全に景色と同化していない。違和感ありまくりだ。


「魔道具ってやつかしら? でも、初期の光学迷彩みたいにレスポンスが遅いわね。止まっていれば厄介だったんだろうけど、足がはやいのも難点ね」


 おそらく暗殺ギルドに所属している実行部隊なのだろう。

 雑魚とあなどって、アデル陛下やエレナ様を傷つけられては完全勝利を逃してしまう。なので、怪しい一団から排除することにした。


 三度、屋根を跳躍ちょうやくして、一団の先に降り立つ。


「そんなに慌てて、どこへ行くのかしら?」


 屋根瓦を蹴り飛ばして、一人の頭にぶち当てた。

 即死だったらしく、ノイズがかったような光学迷彩で屋根を転がる。


「あらら、ほんの挨拶代わりだったのに……弱いのね」


 とたんに、怪しい一団は光学迷彩を解いた。


「くっ、密偵かッ!」

「かまわん、こいつから先に血祭りに上げろ!」


 怪しい一団が、私を囲む。

 ありがたいことに全員、ムチの有効範囲内だ。笑いがこみ上げてくるの我慢する。


「私の名前はホエルン・フォーシュルンド。あなたたちの名前は」


「死にゆく者に名乗る名は持っていない! あえて名乗るのであれば、そうだな〝幻影衆イリュージョンズ〟とでもしておこうか」


 ……名乗っているじゃない。それにしてもダサいネーミング。そのまんまじゃない……センスを疑うわ。


「随分と安直な名前なのね。あ、そういえば暗殺ギルドを代表する七つのチームは、どれもそんな感じの面白味に欠ける呼び方だったっけ」


 にこりと極上の笑みを意識して、小馬鹿にする。


「言わせておけばッ! ……あの世で後悔させてやる! 一斉にかかれッ!」


 こうも簡単に挑発に乗るとは……救えない連中だ。


 腰に吊した鞭を抜き様、横に薙ぐ。

 それだけの動きで暗殺者たちは上下に分かれて倍の数になった。


 不快な臓物ぞうもつき散らし、屋根を転がる。


 即死にならぬよう加減した。心臓と肺は無傷だ。暗殺者たちが死ぬにはまだ時間がある。でも、何人かショック死しちゃったけど……。


 命令を発した者へと歩み寄る。胴体から上下に分かれた暗殺者は、信じられないものを見るようにはみ出ている臓物を凝視している。


「どこの誰の命令?」


「…………」


だんまり? 暗殺者ならそれが正しい判断ね」


 せめて顔だけでも確認しようとしたら、覆面の下から銀光が生まれた。

 慌てて上体を反らす。迫りくる銀光を歯で噛み取った。銀光の正体は針だった。


「ハハッ、馬鹿め! 油断したのが運の尽き、ただでは死なぬ。貴様も道連れだ!」


 どうやらこの無能は、私に針が刺さったと勘違いしているようだ。まったく詰めが甘い。


「ペッ」


 針を吐き捨るなり、暗殺者は声を荒らげた。

「馬鹿な、あの距離で受けとめるとはッ! それも口で……!」


「黒幕のことを吐くつもりはなさそうね。悪いけど、私も忙しいから」


 その場の成り行きで、吹き針を歯で受けてしまった。……間接キスだ。

 どこの馬の骨とも知れない男なんかと、間接キスをしてしまうとは……。しかも、そのことを相手は見ていた。

 生き残る可能性は確実にゼロではあるが、その記憶が残るのは許せない。屈辱くつじょくだ。


 暗殺者の頭をわし掴みにして、電磁式スキャンを試みた。それも最大出力で。


「おゴっ、があァぁぁアッ!」


 頭中の穴という穴から煙が立ちのぼる。脳は完全におじゃんだろう。


「ここまでやれば大丈夫ね。パパが帰ってきたら口直ししなきゃ」


 ポイントを稼ぐべく、私は次の戦場を目指した。


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