第447話 subroutine フレーザー兄弟_双子の目線


◇◇◇ ミーガン(弟)視点 ◇◇◇


 エレナ・スチュアートという女を見送ったあと、僕らはワインで乾杯した。


「なかなか頭の切れる女だったね」

「でも僕らのほうが一枚上手さ」


「ホント、馬鹿な女だよ」

「ホント、馬鹿な女だね」


「「僕たちが、人材を紹介しろって」」


「ハハハハハッ」

「フフフフフッ」


「してやったと思っているんだろうね」

「優秀な人材を得られると思っているんだろうさ」


「「あの御方の思惑通りだとも知らずにッ!」」


 満悦なギルモア。

 兄の笑う姿を見て思う。


 僕こそがすぐれた人材なのに、こいつはほんのちょっぴりはやく生まれただけで、いつも僕の上にいる。

 双子の兄というだけで、本来なら僕が手に入れるすべてを奪っていった。

 気に入らない。

 そのことを、さも当然と受け入れている兄が気に入らない。


 本当に優れているのは僕だ。

 憂国会の人と初めて接触したのも僕だ。


 それなのに兄貴面して、すべてを奪い去っていく。

 ことあるごとに失敗を押しつけ、手柄だけ攫っていく。


 優れている僕に嫉妬しているのだろう。

 この場で殺してやってもいいが、こいつのせいで計画が失敗しては目も当てられない。


 それに気に入らない兄には使い途がある。もうしばらく生かしておいてやろう。


 それよりも今後のことだ。

 あの御方は要らぬ事をしでかす無能を嫌う。自身を優秀だと疑わず、指示に無いことをする者を嫌う。

 バルモアがまさにそれだ。


 王城に〝憂国会〟のメンバーを送り込むチャンスだったのに、失敗を恐れ躊躇ためらった。

 だから、普通に貴族に卸しているリストを手渡してしまった。


 まあ、それでも〝憂国会〟の内通者をばら撒くのにつかっているから、かまわないのだが……。効率が悪い。


 僕より劣る分際で、自分が優秀だと思い込んでいる。あの御方の指示で上手く事が運んでいるのに、さも自分の手柄のように思い込んでいる。典型的な無能だ。その程度の低さは馬鹿とすらいえる。


 一刻もはやく、目障りな兄を始末したい。


 しかし、ここで問題を起こすと、あの御方はお怒りになるだろう。計画に無いことなのだから……。

 時期が来るまで生かしておこう。

 兄を殺すのはそのときだ。


 もうしばらくの辛抱。それまでの我慢。




◇◇◇ バルモア(兄)視点 ◇◇◇


 弟はワインで唇を湿らせながら、陰鬱いんうつな目を向けてきた。


 不快でたまらない。

 貴族たる者、感情を表に出してはいけない。

 こんな出来そこないがいるから、我が家は伯爵どまりなのだ。


「あいつらはいつになったら気づくかな?」

「だいぶ先にならないと気づかないのかな?」


 オウム返しのような受け答えばかり、弟は無能だ。僕の真似ばかりする。僕の喋り損なったことばかり口にする。残しておいた愉悦に浸れる言葉さえもばらまく。本当に不快な弟だ。

 コイツがいるから僕は輝けない。


「バルモア、これからの指示は?」

「まだ届いてないよ、ミーガン。だってあの御方の指示には、連絡はもっと先だって」


 まただ。連絡は弟を通してやってくる。それを知っていて、これ見よがしに突きつけてくる。本当に不快だ。


「次はどうすると思う?」

「どうするんだろうね。ミーガンはどう考えているんだ?」


「わからない。僕たちはあの御方の指示通り動けばいいだけ」


 不快極まりない発想だ。

 あの御方は無能を嫌う。いまのうちにベルーガの情報を掻きあつめなければ。それも価値ある情報。となれば、王城内の……。


 運の良いことに、エレナ・スチュアートと接触できた。これを足がかりに、王城へ手を伸ばそう。王城は貴重な情報の山だ。どんな些細なことでもいい、持ち帰ってあの御方に報告すれば……。


 あの御方は聡明だ。道端に転がっている石ころでさえ価値を見出す。

 角が鋭利な小石を見つければ、そこから砕いたばかりの石を思い浮かべ、そして近場に石や岩を砕いた形跡が無ければ鉱山の有無をしらべる。

 そうしていくつか秘密裏に採掘されている鉱山を見つけたらしい。


 国に届け出していない未知の鉱山だ。

 それを脅し、ときには皆殺しにして奪い、基盤となる財を築いたとか……。

 抜け目がなく、そして鋭い観察眼を持つ御方だ。あの御方についていけば、フレーザー家の繁栄も間違いない。


 そのためにも覚えを良くしておかないと。

 だから情報が必要だ。

 あの御方は情報に貪欲だ。


「当分はここで待機だね」

「…………」


 無能な弟は考えることを放棄している。

 自ら頭を働かさず、手足を動かさない。怠け者に富と権力はやって来ない。

 愚かな弟の陽気な言葉に怒りを覚える。


「待機しているのも退屈だね」


 僕なりにヒントを与えてやった。しかし返ってきた言葉は、

「退屈を楽しむのも貴族のたしなみだよ」


 呆れてものが言えない。

 無能な弟を無視して、配下の者に指示を出すことにした。


「それじゃあ退屈を楽しもう」


 不快な弟と顔を合わせるのが、この上なく腹立たしい。


 近い将来、僕の脚を引っぱる弟を殺す手筈になっている。

 本当は、いますぐにでも殺してやりたいのだが、大事な局面で問題を起こしては僕の心象が悪くなる。

 この一件が終わるまで待っておいてやろう。

 弟を殺すのはそのあとだ。


 もうしばらくの辛抱。それまでの我慢。

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