第439話 subroutine ???_黒幕


◇◇◇ ???視点 ◇◇◇


 教皇暗殺は未遂に終わった。

 しかし、これも計画のうち。


 真の狙いは最奥の間の奥にあるアレだ。


 星方教会の教皇、それに一握りの者しか立ち入れぬ聖櫃せいひつの間。

 そこにある聖骸を奪い去れば、星方教会の威信は地に落ちるだろう。


 奪った聖骸を新たな聖地に安置すれば、我ら主神派の悲願は達成される! 主神派が大陸全土の教会を統べるのだ!


 震える手で、聖櫃の間へとつづく扉を開ける。


 聖櫃に忍び寄り、蓋に手をかけたところで、

「コンサベータ枢機卿、そこで一体何をしているのですか?」


 はっと振り返り、声の主を探す。


 柱の陰から序列一位のユスティナが出てきた。


「驚かせないでくれないか。心臓に悪い。私はただ見まわりに来ただけだ」


「見まわり? 聖櫃の蓋を開けて何をしようとしていたのですか?」


「確認だ。教皇猊下が襲われたのだ。もしやと思い、聖骸が無事か確認しに来た」


「そうですか、ではそういうことにしておきましょう。ときにコンサベータ枢機卿。いえ、…………」

 ユスティナは、知られてはならぬ秘密を口にした。


 生かしてはおけない。

 このことが露見すれば、私は憂国会に消される!


 聖骸を諦めてでも、この女の口を封じる必要が出てきた。


 ある男から譲り受けた魔導器アーティファクトをかまえる。赤い光で攻撃する魔導器、恐ろしい武器だ。それから放たれる赤い光は〈魔法障壁マジックシールド〉すら無効化する。男が言うにはまだ三回つかえるらしい。


 その恐るべき魔導器をユスティナに向けた。

 金具を指で引き、起動させる。

 針のように細い、赤い光がユスティナを襲った。


「やった!」


 光はたしかにユスティナを射貫いた。しかし、序列一位の純潔騎士に変化は見られない。


「なぜッ! どうしてッ!」


 さらに二回、魔導器を起動させた。

 たがうこと無く命中するも、ユスティナはピンピンしている。


「あの男に騙されたのかッ!」


 金具を引いても、魔導器は赤い光を放たない。


 星方教会最強と謳われる、紅の騎士が歩み寄ってくる。


 ガラクタになった魔導器をユスティナに投げつけた。

 序列一位の純潔騎士は剣を抜くまでもなく、歩みをずらして避ける。


「クソッ、こんなはずでは」


 ここまでか……。


「あの男というのが今回の黒幕ですね。それで、あなたはのですか?」


「心の傷? はっ、あれを傷と言うか。私に降りかかった厄災はそのような生易しいものではない。聖典を信じ、聖典を敬い、聖典に祈りを捧げ、人生までをも捧げた。その結果が、いまの私だ! 分け隔て無く慈愛を与えてきた。姿の異なる異種族にも、考えの異なる蛮族にも。それなのに、それなのに……娘が犠牲になった! 貴様にわかるか! たった一人の娘を奪われた親の気持ちがッ! それもこれも聖典のせいだ。分け隔て無くという文言さえ無ければ……」


「無ければ」


「薄汚れた人族モドキを根絶やしにできたのにッ!」


 ユスティナが剣を抜く。上段にかまえた剣の陰が顔に落ちる。まるで神から見放されたような不安が胸に広がった。


「懺悔は聞きません。あの世で後悔してください」


「私が行くのはあの世ではない。地獄だ」


 神の裁きが振り降ろされた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る