第438話 subroutine ツェリ_デキる女


◇◇◇ ツェリ視点 ◇◇◇


 謁見のあと、教皇猊下から話があると呼び出された。

 なんでも称号に代わる褒美をくれるらしい。


 小娘だと侮っていたが、なかなか見所があるではないか。

 この私――ツェツィーリア・アルハンドラの活躍を直々に評価してくれるのだからなッ!


 ああ、自分の才能が恐ろしい。


 ……しかし、一人だけ呼び出されるのはいただけないな。こういう話には裏がつきもの。一体何を言われるのやら。


 好奇心半分、怖いもの見たさ半分で、教皇姉妹の招きに応じる。


 案内役は序列第一位のユスティナ。聖地イデアで見たなかでは一番の美人だ。悔しいが、私よりも上である。

 その美しさは容姿に留まらず、物腰、所作、声音、知性、教養と多岐に多岐にわたる。ベルーガの王女姉妹に勝るとも劣らない。


 そんな美女に案内され、最奥の間とは別の場所へ行く。


 途中、序列四位のキャスリンなる斧槍遣いに武器を預ける。


 さらに奥へ行くと、ユスティナが下がり、代わりに序列二位の弓娘――オフィーリアが出てきた。


 小柄な弓遣いが、

「お召し物を預かります」

 と詰め寄ってくる。


 気楽に話しあう、もしくは胸襟を開いての秘密会談か!

 いいだろう。そこまで重く見られているのだ。その誘い受けて立とう!


 オフィーリアに元帥服を預けるも、彼女は立ち去ろうとしない。


 不思議に思っていたら、

「ここから先は神聖な沐浴の場、不浄の物はすべてこちらに」


 なるほど、裸の付き合いか。カーラ、エレナにつづく知己が増えるのだろうか?


 まったくもって、私は罪作りな女だ。ベルーガの王族だけに留まらず、星方教会の頂点に君臨する教皇にまで気に入られるのだからな! ああ、自分の人望が恐ろしい。


 気合を入れて全裸になった。


 脱いだ服を渡そうとすると、オフィーリアは頬を染めて、

「アルハンドラ公、先ほどはありがとうございました」


 礼を言われて思い出す。オフィーリアは教皇暗殺を阻止した場にいた純潔騎士だ。

 魔人と呼んでいた化け物を自慢の弓矢でハリネズミにしたが、倒れることなく突き進んできたので面食らっていたな。

 まあ、私からすれば雑魚だったが。


 オフィーリアが弱かったわけではない。武器の相性が悪かった。それだけのことだ。

 意図せず助ける形になってしまったが、そのことで礼を言ってるのだろう。


「恥じることはないぞ。アレとは武器の相性が悪かっただけだ。オフィーリア殿はその地位に相応しい強さを持っている」


「そう言っていただけると、気が楽です」


 小柄な弓遣いの純潔騎士は、うっとりとした表情で私を見上げてくる。

 どうやら、憧れるような強さだったらしい。


 当然だ! 私はベルーガの誇る元帥なのだからなッ!


 それから沐浴の場――浴場へと入り、身を清めた。


 水だったらどうしようかと本気で考えていたのだが、杞憂に終わった。浴槽に引かれているのは温泉。

 元帥らしく頭のてっぺんからかけ湯する。

 ベルーガの誇る美人元帥が、さらに美しくなった気がする。


「身を清められましたら、しばし湯殿でお待ちを。猊下は、仕度が終わり次第こちらに」


「わかった」


 案内役のオフィーリアもいなくなったので、温泉を楽しむ。

 泳いだり、浮かんだり、ぐるぐるまわったり。

 一通り楽しんでから、湯あたりしないよう浴槽のへりに腰をおろしていると、件の教皇姉妹があらわれた。


 あの野暮ったい黒色眼鏡をかけていない。拝謁の時には見られなかった双眸があらわになっている。目を奪われるような、美しい七彩眼アースアイ。まるで星を散りばめたように煌びやかな金髪は長く、くるぶしまで伸びている。

 まだ成熟しきっていないのだろう。胸は貧しい。


 長姉とおぼしき先頭を歩く少女は私と同じ全裸で、なぜか棒を咥えている。それにつづく二人は恥ずかしそうに腰布を巻いていた。


 愛でたい!


 全裸が浴槽に入り、私の前に来る。なぜか腰布を巻いた二人は私の両脇に立った。


「ベルーガの誇る元帥、ツェツィーリア・アルハンドラ公爵、こうして話すのは初めてだな。アタシはカレン、横にいる二人の姉だ。おまえたち、挨拶しろ」


「オレはエレン次妹だ」

「ボクはセレン、末っ子」


 オレッ娘に、ボクッ娘か。嫌いではない。不遜な長女に、ツンツンした次女、モジモジした末妹とどれも愛で甲斐がある。


 さて、姉妹を愛でる前に話だ。

「用件を聞こう」


「ストレートなのは嬉しいね。アタシらとしてもありがたいよ。腹の探り合いは楽しくないからねぇ」


「同感だ。で、このような場に呼び出したのだ。ただの密談ではあるまい。聖地イデアをも揺るがしかねない重大な話とみた」


「鋭いね。たしかに、これから話すのはだ」


 ここに来て、国家に関わる大事だと告げられた。膝に乗せている拳に力が入る。


「それで、その大事とは?」


「まずは、これから話すことを誰にも洩らさないと誓って欲しい。話はそれからだ」


「わかった。貴族の名にかけて誓おう! 私、ツェツィーリア・アルハンドラはこの場で見聞きしたすべてを秘密にすると誓う。これでいいか」


「誓約書はないが、我慢しよう。なんせ、偉大な元帥様だ。名誉の価値くらい理解しているだろう」

 そう言うと、カレンはチュポンと咥えていた棒を吐き出した。棒の正体は柄付き飴だった。


 厭らしくベロベロと飴を舐めている。


 黙り込む姉に業を煮やしたのか、次妹が声をあげた。

「アネキ、もういいだろう。オレ我慢できない」

「ボク、もう限界!」


 我慢? 限界? 意味がわからない。


 どんな顔をしているのか、妹たちへと視線を向ける。


 


 腰布が膨らんでいたのだッ! これの意味することを私は知っている!


「おっ、おまえたち男だったのかぁッ!」


「だからどうした。教皇が男だといけないのか?」

 強気に言い返すエレン。対して末っ子のセレンは申し訳なさそうに、モジモジしている。

「男は……駄目?」


「駄目だろう! 星方教会の教皇は三姉妹! 公然の事実だッ! それが、男が混じっているなど……嘘をついてもいいのか!」


「いいよ。だってアタシら教皇だし、星方教会の最高権力者だし」


「…………し、しかしだなぁ。教皇といえば聖地イデアの国家元首。性別を偽るのはどうかと」


「逆に聞くけど、そっちのカナベル元帥はどうなのさ? 女なのに男だって偽っていたじゃないか」


 キツいところを突いてくる。

 混乱しかかったが、そこは私。ベルーガの元帥としての知性が迷いを打ち消した!


「ところで話というのは?」


「アタシの質問は無視か……別にいいけどね。それじゃあ、ご要望通り話を元に戻そう。ズバリ言うよ、アタシらと結婚しないか?」


「け、結婚! 待て待て待て待て! なぜそのような話を!?」


「アタシは女もいけるクチだ。ま、それはいいとして、弟たちがね盛っちゃってね。困っているんだよ」


「であれば、純潔騎士がいるだろう。それに信徒も!」


「あー、そういうの駄目なんだわ。オレら教皇じゃん、教会のシンボルじゃん、信徒は家族ファミリーじゃん。だから手出しとか駄目じゃん」


「そうそう、教皇って身分だけで無条件に従うから……。そういうのって、ボクは愛じゃないと思う」


「信徒を騙している時点で、愛など無いと思うが……」


「そういう堅い話はナシにして、あっちでゆっくり、オレらと愛を語ろうや」


「愛を語ろう。ねッ♪」


 腰布の膨らみが大きくなる。


 一度冷静になって考える。

 成人の儀式もすませていない小僧と結婚しろだと!

 いや、待てよ。コイツら、よく見てみると美形だな。教皇といえば、最高権力者。金に不自由はしない。それに若いし……。


 心が揺らぐ。


「悪い条件じゃないと思うけどねぇ。アタシらと結婚すれば、贅沢のし放題。好きな物をいくらでも食べられる」


「野菜だけの食事は嫌だぞ。あと家事全般!」


「問題ない。毎日、肉を食べてもいい。家事もやる必要は無い! 代わりと言っちゃなんだけど、面倒臭い神事があるけどね。それさえクリアすりゃあ天国さ」


 家事不要、毎日好きな物食べ放題! おまけに若い美形の男、それも二人!

 夢にまで見た新婚生活。


 悩む。だが、ベルーガで築き上げた元帥や公爵の地位は捨てがたい。しかし結婚したい!


「ツェツィーリアおねえちゃん。ボクじゃ嫌?」


「馬鹿だなあ。セレン、こういう時は告白も兼ねて愛称で呼ぶんだよ」


「どんな風に?」


「まあ見てな」


 尖った弟のエレンが、私の肩に手を置く。

「ツェリ、愛してるぜッ!」


「あー、零点」


「えっ! 信徒から百発百中だって聞いたのに」


「その愛し方はないな。魂胆が見え見えだ。女が逃げるぞ」


「じゃあ、こういうのは?」


 末っ子セレンが肩を抱き寄せてきた。そして……、

「ツェリおねえちゃん、大好きッ♪ ん~」


「んんッ!」


 小僧とは思えぬ情熱的な接吻べーぜを仕掛けて来た。子供にしては舌戦が巧みだ! 将来有望な女誑しとみていいだろう!

 なかなかやるなッ!


 しかし、私には元帥としての矜持がありゅんんんッ?!


 不発だった弟エレンが、攻めてきた。厭らしい手つきで胸を揉みしだいている。

「うわっ、すっげー柔らけぇ! ツェリ最高じゃん!」


「ん゛ーーーーー! ん゛ーーーーー!」


 なかなか将来有望な子供たちだ。しかし、私は墜ちん!


 踏ん張っているところへ、トドメがやってきた。長姉のカレンだ。弟二人が未熟なので、この姉もそうだと思っていたのだが……。


「おまえたち、本当に駄目だねぇ。アタシがやるのをようっく見てな。女ってのはね。こうやって堕とすんだよ」


 態度がデカいだけのことはある。カレンは非常に手慣れていた。女でもあるし、当然のことか……。


「んんッ! ん?? ん゛ん゛ーーーーーッ!」


 こうして私は、キスで口を塞がれたまま教皇姉妹に攻め滅ばされた。

 しかし悔いはない! 念願の夫をゲットできたのだからなッ!


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