第424話 subroutine エアフリーデ_魔人
◇◇◇ エアフリーデ視点視点 ◇◇◇
「…………以上で報告は終わりです」
教会で起こった騒動を教皇猊下に伝えると、アルチェムは怪我の治りきっていない身体を引きずり、純潔騎士の並ぶ列に戻った。
黒色の眼鏡で表情はわからないが、猊下は難色を示しているようだ。
柄付き飴をボリボリやりながら、次の包みを解いている。
三本目の飴をかみ砕き、四本目を口に入れたところで、やっと口を開いた。
「魔人か……」
指を鳴らし、一人の純潔騎士を指し示す。眼帯で両目を覆った金髪の純潔騎士だ。
「ユスティナ。おまえの意見を聞かせてくれないかい?」
序列一位の純潔騎士ユスティナ。彼女が指名されるのは珍しい。ユスティナに聖務が通達されるときは、限って大事だと決まっている。今回の魔人出現はそれほどの事態なのだろう。
なんせ、魔人は聖典にも出てくる邪悪の尖兵。挿絵だけの存在で、ごく一握りの語り部にしか伝えられていない。ゆえに真実を知る者は少ない。
序列三位の私ですら、赤黒い身体のケダモノで弱点は頭としか知らされていない。
人々の記憶から消えぬよう、最低限のことを語り部が伝えているが、それは大昔のおとぎ話。太古の昔――数百年も前に、教会が奴らと戦ったという伝承だけ。
そんな嘘のような真の存在が、いまの時代に蘇った。
マキナ聖王国のことといい、南大陸で起こっている争乱といい。聖典に記されている終末が近づいているのだろうか?
この場にあつまった純潔騎士たちが、固唾を呑んでユスティナの言葉を待っている。
ユスティナは形の良い顎に指の背を添えてたまま、微動だにしない。
「検分に立ち会ったんだろう? あれは魔人なのか、魔物なのか、それとも
しばしの間を置いて、顎から指が離れた。
「魔人で間違いないでしょう。ですが、私の知っているものとかけ離れています」
「それはどういう意味だい?」
「魔王が放ったとされる魔人は頭部を破壊すれば死に至ったはず。今回倒したそれは頭部を破壊されても、なお動きつづけた……」
「それについてはアタシも変に思った。だからユスティナに聞いたんだけどね」
「申しわけありません」
「謝ることはない。語り部の言葉も絶対じゃない。どこかの代で誤った情報が伝わった。こういったことは、ままあることだ。修正すればいい。そうだ、お触れを出そう! 今世の魔人はより一層邪悪な存在だと、弱点についてもだ。わかったかい?」
「はっ。直ちに検分結果をまとめ、各国の教会に通達します」
ユスティナへの命令が終わり解散。今回はハニートラップの件は議題にのぼらなかった。
猊下はあまり期待していないらしい。神託に出た結果はどうだったのだろうか? そもそも結果は定まっているのだろうか? 気になることではあるものの、主神スキーマ様に仕える私たちでは、おいそれと神託の内容を聞き出せない。
神託は神の言葉だ。その言葉に疑問を抱くとなれば、神への冒涜と受け取られかねない。
ああ、気になって仕方ない。
結局、このハニートラップは成功するのだろうか?
神のみぞ知る結末に、私は苛立ちを覚えた。
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