第414話 海②
船酔いを克服して、船旅を満喫する。
極力、身体を揺らさないようにしていたら、その姿がつまらなそうに見えたらしい。
エアフリーデさんが、海から見える名所を教えてくれた。
「あれがイデア名物の灯台。三つあるうちの一つ、力の導き」
「残りの二つは?」
「ここから北へ行くと慈愛の導き、南へ行くと叡智の導きがあります」
「スキーマ様の掲げる、三つの柱ですね」
「そうです。聖典にも載っている、三位一体。その象徴が、イデアの沿岸部に三カ所。海を旅する人々を導いてくれます」
豆知識を聞きながら船旅を楽しんでいると、沖合に不審な船を発見した。
「あれは?」
「教会の船です」
「そっちじゃなくて、
「遭難している人を助けているのでは? 沖に出ると波が荒くなるので、おかしなことではないと思うのですけど」
「本当にそうですかねぇ」
相棒に思念を送る。
【あの舟をズームしてくれ】
――了解しました――
豆粒ほどの人影を拡大すると、大きな麻袋を舟から船へと移し替えている最中だった。
「遭難者って、荷物を大量に持っているものなんですか?」
「それは……もしかしてッ! 船長、あの船に近づけて」
エアフリーデさんは船長に命じて、不審船に近づけさせた。
なんとなく交戦の予感がする。
【フェムト、あいつらが武装していないかたしかめてくれ。スキャンだ】
――距離が遠すぎます。光学式のスキャナーを構えてください――
【わかった。スキャン方法は……】
――可視光線禁止でしたね――
【そうだ。この惑星の人たちにバレないようにしないとな】
――…………武装しています――
【武器は?】
――薄刃剣……曲刀が多いですね――
レーザーガンは攻撃用の
普通は攻撃兵器のほうが気になるんだけどな……。攻撃魔法が発達しているから、軍事兵器とかあんまり興味ないのかも。
そんなことを考えているうちに、不審船との距離はみるみる縮まっていく。
相手の姿をズームせず視認できる距離になったところで、火の弾が飛んできた。
「攻撃してきた! 睨んだ通り、海の上で密売していたのね」
一体何を密売していたのだろう。気になる。
好奇心を満たす前に、まずは飛んできている火の弾をどうにかしよう。
「〈
慣れた魔法を行使して、まずは火の弾を無効化。
大量の水蒸気が立ちこめるなか、久々にレーザーガンを抜いた。
【射撃アプリを立ち上げろ。利き手を狙う】
――標準はどうしますか?――
【俺の射撃の腕は知ってるだろう。
――了解しました――
マーカーの打たれた男たちに狙いを定め、レーザー光線をお見舞いした。
水蒸気越しなので威力は落ちるだろうが、それでも利き手を封じるには十分だろう。
視界に入っている七人を無力化した。
「ラスティ殿下、お見事ッ! あとは私にお任せを!」
船同士がぶつかるなり、エアフリーデさんが不審船に乗り込む。
一応、国賓なのでここで待っていてもいいけど、女性に荒くれ者の相手をさせるのもね。
【フェムト、足場の揺れ補正を頼む】
――波による揺れと同期させるのですか?――
【そうだ】
――不確定要素もあるので陸上と同じとはいきません。それにリソースを多く割きます――
久々のリソース不足だ。
戦闘は魔法メインにしようか、近接戦メインにしようか悩むな……。最近、鈍っているし、久々に身体を動かそう。身体強化は……いらないか。
【格闘用の戦闘アプリを立ち上げてくれ】
――魔法はどうしましょうか? すぐに使用できるように魔法専用アプリを立ち上げますか?――
魔法専用アプリ……そんなものつくってたのかよ。
こっそり思ったつもりだが、かなり強く思っていたようだ。思念を傍受したフェムトから返される。
――時間は十分にありましたので、効率化を考慮して制作しました――
【今回は……不要かな】
――では揺れ補正と格闘アプリだけですね。了解しました――
揺れる甲板を蹴って、俺もつづく。
身体強化をケチったせいで、船に跳び移る際、海に落ちかけた。
危ない危ない。
リソースも限られているので、今回は〝アイキ〟の技で戦うことにした。
先行したエアフリーデさんは、すでに二人斬り伏せている。
対する敵は十人以上の屈強な男たち。その背後には、火球を放ってきた魔術師が隠れている。
魔法で攻撃される前に、手持ちのナイフを投げつける。板状の投擲ナイフだ。
飛び道具専用のアプリを立ち上げていないので、数でカバーした。五枚投げて、一枚が命中。情けないほどの命中率だ。しかし効果はあった。
手傷を負ったので魔術師は怯んでいる。痛みで魔法に集中できないのだろう。
いまのうちにさっさと片付けよう。
「くそっ、魔術師がやられたッ! 新手もできるぞ、油断するなッ!」
「船長、二人もいるぜッ!」
「ビビるな、教会の女騎士とひょろっこい男だけだ。魔術師がいなくても殺れる!」
ひょろっこい男ってのは失礼だな。ここは男らしく拳で語ろう!
船長と呼ばれた男の指示が終わると、赤銅色の屈強な男たちが薄刃の曲刀を抜いた。それなりに心得があるらしい、下っ端らしい男が曲芸師みたいに曲刀を振りまわしている。
戦いにおいて、頭を叩くのは鉄則だ。
命令を出した船長めがけて突っ込む。
こっちに向けて振り下ろしつつある腕を掴み、〝アイキ〟の技でねじり上げる。
ゴキン。
肩の関節を外して無力化して、さらなる獲物を追い求めた。
あっという間に四人を無力化した。五人目を目で追っていたら、たまたま目のあった男がヒッと呻いて曲刀を手放した。
勝敗が見えてきたところで、声が湧く。
「原初の赤よ。その猛々しい力で眼前の敵を焼き払え!〈
馬車の車輪ほどの火球が飛んできた。
しかし、ナイフで負った傷のせいで制御が完璧ではない。難なく魔法を躱せた。
【フェムト、やっぱ魔法だ。魔法をつかえるようにしてくれ】
――やれやれ、女性の前だから良いところを見せようと見栄を張るからですよ――
【見栄とか張ってないぞ! そもそもエアフリーデさんは、おまえやリソースのことを知らないんだからな】
――そうやってムキになっているのが見栄を張っていた証拠です――
【う、うるさい! いまは戦闘中だぞ!】
――はいはい、黙っていればいいのでしょう。黙っていれば――
視界の隅に、魔法アプリが表示される。宇宙軍好みの扱いやすいUIだ。
最近フェムトの奴は生意気だ。AIに自我を持たせることを危惧しているお偉いさんの気持ちがわかってきた。まあ、敵意がないだけよしとするか。これからも付き合っていく相棒だし。大目に見よう。
魔法もつかえるようになったので、強気に攻める。
まずは魔術師だ。また男たちの陰に隠れられる前に捕まえて、手加減無しでぶん投げる。
「うわぁぁあッ!」
男のくせに情けない声を出して海へ落ちていった。ここまでやれば、完全に再起不能だろう。
残った曲刀を持つ男たちの肩を外していく。
俺のほうが片付くよりも先に、エアフリーデさんのほうが先に決着がついたようだ。彼女は、剣についた血を振り払っていた。
「見事な腕前ですね、ラスティ殿下」
「そちらこそ」
「これで甲板の敵は無力化しました。このまま船を制圧しましょう」
灰髪の美女は涼しげな顔で言う。
男たちでは彼女の力を推し量れなかった。なんせ全員急所を外して倒されている。手加減しまくりの戦いだ。俺が手伝うまでもなかったな。
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