第405話 聖地イデア①
使節団に選ばれたのは、俺と腹黒元帥――ツェリ、エレナ事務官太鼓判のロビンと、信頼できる宇宙軍の新婚夫婦リュール&ブリジット。あとは側付きの騎士ホルニッセ。使節団の主要メンバーはこの六人だ。
ほかにもカーラのつけてくれた近衛の騎士もいる。なんでも生え抜きの精鋭らしく、安心感がハンパない。手際の良さといい、警護の隙の無さといい宇宙軍の
王都を立ち、半月。目的の星方教会の聖地イデアに到着した。
本当は国民に知らしめるため二月ほど時間をかけて並足で行く予定だったのだが、無理を言って旅程を短縮してもらった。その代わりに、途中で立ち寄った村や街で貴族らしく爆買いしてお金を落としたり、住民の要望を聞いたりしてまわった。
改善点やら支援の予定やらで、元帥の子息であるホルニッセやロビンには書記の真似事をさせてしまったが、彼らは嫌な顔をすることなく快く仕事を引き受けてくれた。
ロビンは同じラスティ姓でもあるし、この仕事が終わったら特別に褒美を出そう。ホルニッセにもだ。
大盤振る舞いな気もしたが、傾いていたベルーガに忠誠を尽くしてきた人たちだ。それくらいのご褒美があっても文句は言われないだろう。
聖地でもある星方教会の本拠地に入る前に化粧直し。
話のまとまっているお芝居外交だが、国を代表する大使。ビシッと決めなければ!
俺は王族らしく威厳のある華美な服に袖を通した。金糸や銀糸であしらわれたゴージャスな出で立ち。一応、護身用に宇宙軍の士官として最低限の装備はしている。レーザーガンと高周波コンバットナイフだ。
士官たるもの、いついかなるときも臨戦態勢で臨ばねば。これ、ホエルンの直伝。教官の教えは大事。
ツェリは普段通りの赤を基調とした元帥服で、いつもはストレートの髪型をポニーテールにしている。露骨にうなじを晒して、男捜しに余念が無い。心なしか、良い香りがする。こちらも気合が入っている。
ロビンはいつもの執事服で、リュールとブリジットは貴族風の服装だ。
リュールは普段とあまり代わり映えないが、ブリジットは髪をアップに結っている。田舎娘を自称しているが、かなり美人だ。胸元を大胆に開いたドレスも相まって、貴夫人然とした趣がある。本人もノリノリで開いた扇で口元を隠している。
ホルニッセは道中と変わらず、お堅い騎士の装いの部分鎧と剣。
国を代表する使節団としての装備もととのったので、聖地イデアに足を踏み入れた。
◇◇◇
人口は多いものの、イデアは穏やかだった。ベルーガ王都のような活気や賑わいはない。共通しているのは、すれ違う人々が笑顔だということだけ。王都が都会なら、イデアは田舎だ。そのくせ規模は王都並み。
てっきり住民の笑顔は、発展している都市特有の現象だと思っていたのに……。
この惑星の幸福度の基準が理解できない。
今後のための資料としてサンプリングした。
大通りを遅足で馬を走らせる。
地域の特色なのか、漆喰を塗った白い家屋が目立つ。聖地に相応しい清い街並みだ。
歓迎パレードはなかったが、たまに花びらを撒いている人たちと遭遇した。彼らを率先しているのは僧衣を纏った教会の人たち。
どうやら星方教会の歓迎らしい。街並みもそうだが、イデアは質素だ。
まあ、金に物を言わせて華美な歓迎を受けても対応に困るが。
花びらと笑顔のお出迎えに、軽く手を振って応える。事情を飲み込めていないのか、子供たちがキャッキャはしゃぎながら花びらを撒いている。微笑ましい光景だ。
イデアの中心、星方教会の大聖堂へ進む。
衆目に晒されながら、小一時間かけて大聖堂に到着。
石造りの大聖堂は、ベルーガの王城に匹敵するデカさで、信徒や教団関係者が
なんともちぐはぐな感じだ。
部下の一人が、入り口に立っている騎士へ近づく。白い鎧を着た騎士だ。マキナにもいたな、聖騎士なのか、聖堂騎士なのか、見分けはつかないが教会関係者なのは間違いない。
しばらくして、部下との話し合いが終わった騎士がこっちに来る。
「ベルーガ王国のラスティ・スレイド公爵殿下でございますね。どうぞこちらへ」
別の入り口に案内される。
人気は少ないが、立派な門が俺たちを出迎えてくれた。
それにしても凄まじく大きな門だ。高さ、幅ともに二〇メートル以上、宇宙の小型艦が楽に通れるくらいの大きさだ。
立派な門が開くと、そこには門に負けない広大な敷地があった。
騎士が言う。
「お供の方々を留め置き、まずは枢機卿にお会いください」
「教皇猊下との謁見ではないのですか?」
「神事の最中でして、数日……いや一週間は謁見できないかと。詳しい日程はのちほどお伝えしますので、先に枢機卿との会談をお進めください」
教皇と謁見するだけなので、聖地イデアでの滞在は数日で終わるものだと思っていた。
まさか教会のイベントとかち合ってしまうとは……。
互いに出してあっていた使者の行き違いや、通達にかかったロスタイムなどにより計画が大幅に狂ってしまったのだろう。俺が、急いで来たのもあるな。
情報伝達技術が発達していないというのも問題だ。
あらためて、この惑星が不便なところだと実感した。
「そうですね。押しかけてきたのはこちらです。教会としても準備が必要でしょう。まずは枢機卿に会うということで」
「ご理解いただき感謝します。スキーマ様のお導きのあらんことを」
教会お決まりの文言を投げかけられたので、首から下げている教会の祭具を取り出した。昔、ロレーヌさんにもらったやつだ。
「お導きのあらんことを」
教えてもらった通りに返したつもりだが、騎士は妙な顔をした。
「公爵殿下、なぜそのような祭具を?」
祭具へ目をやる。別段おかしな感じはしないが……。
「王族ともなれば金の祭具が贈られるはずですが……」
「ああ、これは知り合いの司教様にもらったんですよ。信仰の厚さに祭具の華美は関係ありませんからね」
「ちなみに、なんという名の司教ですか?」
「ロレーヌ司教です」
「おおッ! 戦乱に
「え、ええ、まあ」
そういえば、そういう称号をもらったな。
「なるほど、なるほど。噂通りの
言うと、騎士は掲げていた祭具を隠すように握った。
「銀の祭具を賜ったばかりで、みせびらかしたと思っていた自分が恥ずかしい。聖騎士らしからぬ振る舞いでしたな」
…………そういうアイテムなのか、これ?
木彫りの祭具を見つめる。
「自分も初心を忘れぬよう。昔つかっていた祭具を身につけるようにします」
ちょっと待ってくれ! 俺が切っ掛けで何かが起こりそうな気がしたので、慌ててとめる。
「そのようなことをする必要はありませんッ! 聖騎士殿は日夜、神の寝所である大聖堂を護っておられるのでしょう。まさに大役です。その銀の祭具は主神スキーマ様からのご褒美なのでしょう。誇りを持つべきです!」
力説すると、聖騎士は背筋を伸ばした。
「門の警護はつまらぬ仕事と思われがちですが、その聖務をそこまで理解しておられるとは……」
堂々とした体躯を直角に曲げ、深々と一礼してきた。
「聖務につまる、つまらないはありません。どれも大切なことです」
「さすがは神の僕であらせられる」
なんか勘違いされそうなので話を変えた。
「ところで聖騎士殿の名前は?」
「自分としたことが……。自分は大聖堂の門番を命じられているパウルゼンと申します。聖騎士殿などと呼ばずに、今後は気軽にパウルゼンとお呼びください」
「では、聖騎士パウルゼン、枢機卿への取り次ぎを頼めますか」
「喜んでッ!」
使節団の荷馬車や護衛の多くをそこへ残して、主要メンバーと腕利きの護衛二〇名で大聖堂の奥へ。
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