第402話 任務確定①



 列車開発に勤しんでいたある日のこと。

 アデルから呼び出しがかかった。


 向かったのは玉座の間ではなく、国王の執務室。

 側仕えとなったホルニッセが言うには、内々の話らしい。


 ついに来たか、外交案件……。


 王都の復興、食料や生活必需品の安定供給、経済・治安の回復。復興の波は王都を中心に東西南北へと広がりつつある。ベルーガ南部にいたマキナの残党も、セモベンテの活躍により排除された。

 失われた国土を回復し、ベルーガは以前の栄光を取り戻つつある。

 安定したと言ってもいいだろう。


 これからは外へと目を向けなければいけない。外交だ。


 戦時中をいいことに火事場泥棒を働こうとしてたザーナ都市国家連合とランズベリー法国。この二つの国は、隙あらばベルーガに襲いかかろうとしている意地汚い連中だ。


 ザーナは、エレナ事務官によってその報いを受けたが、ランズベリーは不発状態。それどころか西部の鉱山の権利をかすめ取り、調子づいている。


 大国の座に返り咲いたベルーガではあるが、激減した人口までは回復していない。ちいさないざこざも避けたいのが現状だ。


 ベルーガに手出しさせないためにも同盟の強化が必要になってくる。

 着手すべき国策は外交戦略。

 使節団の派遣だ。


 政治的な思惑から、星方教会の本拠地――聖地イデアへ使者を送ることになった。


 ベルーガを攻めた悪い連中はマキナ聖王国だとわかっている。しかし、その国教である星方教会への不信感は払拭し切れていない。

 真実を知る国の上層部は、マキナの思惑と星方教会のそれがちがうことを知っている。

 だが、国民になると話は別だ。政治的な話なので、平和を望む者たちは詳しく知らされていない。


 そういった情報量の偏りから、いまだ一部の国民は星方教会に怒りを抱いている。

 まあ、マキナに加担した枢機卿の管理責任はあるが、星方教会は復興支援をしてくれた。責めたところで過去の話、あまりネチネチ言わないほうが、両者とも気持ちよく話し合いできるだろう。


 アデルの戴冠の儀や、俺たちの婚姻の儀に立ち会ってくれただけに、このまま捨て置くのも悪い。ベルーガと教会の間に溝ができるのはもっと悪い。

 仲違いが長引くと、それが普通になってしまう。そうなると、アデルの子孫が困る。


 長期的な観点にもとづいて考えるのなら、友好関係を強化していくべきだ。

 そんな思惑もあって、マキナと聖地イデアが別物であることを国民に知らしめるべく、使節団を派遣することになったわけだ。


 肝心の使者だが……王族である俺に白羽の矢が立った。


「ならばオレも同行しよう」

「でしたら私もご一緒します」


 息の合った姉妹が同時に意思表明するも、エレナ事務官に速攻で却下された。


「それは駄目。ティーレには東――ガンダラクシャでラーシャルード軍国との会談に出てもらうわ。カーラは第二王都の視察、そこにあつまった臣民にベルーガの威光を示さないと。アデルは私がついているから大丈夫。敵対派閥ににらみを利かせておくわ。国内外が安定しないと、せっかく押さえ込んだ敵対派閥が、また息を吹き返すことになるわ。ふりだしに戻るのは嫌でしょう。それだけはどうしても避けたいの。だからここで決定的な手を打っておきたいのよ」


 事情説明が終わると、今度は別の妻たちが動き始めた。

「だったら私ね。一応の王族になるけど血の繋がりはないし、自由に動けるでしょう」


「ホエルンが行くのなら私も同行します」


「でしたら護衛として元帥の私も」


「魔女っていうビッグネームもいるわよ」


 ここぞとばかりに名乗りをあげる妻たち。自信があるのだろう、みんな揃ってドヤ顔だ。しかし現実は厳しい。


「それも駄目。フォーシュルンド大佐には国防の要になってもらわないと。カナベル元帥は北、大雪山ビッグスノーの蛮族が騒がしいから黙らせておいて。あとマリンちゃんが聖地へ行くには問題が多過ぎね。ベルーガでの魔族差別は無くなったけど、星方教会の本拠地へ行くには時期尚早。使者として行くなら国交が安定してからね。プルガートからクレイドル王からの手紙も来ているし、しばらく実家に帰りなさい。モルガナ、あなたは下手に動くと周辺国との関係がピリピリするから、じっとしてなさい」


 エレナ事務官は、容赦なく妻たちを叩き潰していく。

 噴き出る不満を次から次へと論破していく様は痛快だ。

 さすがは帝室令嬢、鮮やかな手並みである。その才能が欲しいと思った。

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