第401話 会議②
「えっ、ええっ、はい」
「何、その返事。もしかして上の空で聞いていたの?」
どうやら、ぼうっと聞き流していたのバレたらしい。エレナ事務官の眉間に皺が……。
下手なことを答えるとヤバい。
「ちがいます。ただ……」
「ただ?」
考えろ! 考えるんだ、俺! ぼうっと聞いていないという証拠をでっち上げるんだ!
無い知恵を振り絞って、思っていることを言った。
「先ほどのお二人の話を聞いていて思ったのですが、周辺の国家事情があまりにも安心できない状況なので、エスペランザ軍事顧問一人だけで大丈夫かと……。あっ、これは軍事顧問の能力に不安を感じているのではなくてですね。人手が足りているのかと……。争いが起こるのは一つずつとは限りませんし」
「心配するのも当然ね。私も同じ事を考えているから。後顧の憂えなく国家運営に注力できる環境をつくるつもり。軍事に関しては何人か起用する予定になってるわ」
「誰を起用するおつもりですか?」
「さしあたってカナベル元帥とホエルン大佐ね。それ以外も育成したいけど、そっちはエスペランザ准将に任せているわ」
俺にその役目が回ってくるかも知れないので、生け
「トベラやカレン少佐、ホルニッセなんてどうでしょう」
トベラはエレナ事務官の秘蔵っ子だし、カレン少佐は騎馬隊を指揮している。それにホルニッセは亡き元帥の令息だ。能力としては問題ないはず。
「ん~、それもいいけど、もっと別の人たちを起用したいわね」
「となると在野の人たちですか?」
「それプラス優秀な貴族ね。今後の派閥形成もあるし、はやめに手を打っておきたいわ」
先を見据えての人選か、さすがは帝室令嬢。
俺にもプラスになることだし、積極的に協力しよう。
「わかりました。こっちでも見所のある候補者がいたらお知らせします」
「そうしてもらえると助かるわ」
それから、
結果、金で爵位を買う連中なので能力はお察しとなり、じわじわと権限を削っていくことに決定した。
「気に入らないのよねぇ。国が安く放出している食糧をかっ
「さすがは妃陛下! よくぞ申してくれました」
「国に隠れて利益を
内務卿と財務卿は心当たりがあるようで、エレナ事務官の打ちだした方針に過剰な反応を示した。鼻息荒く興奮している。
置いてけぼりになった感のある俺の奥さんたちと宇宙軍の仲間だが、そっちも意見を出し合って今後の方針が示された。
奥さんたちに関しては、いままでと同じだったけど、宇宙軍の仲間はさらに仕事が増えたようだ。
リュール少尉は国の広報に組み込まれ、ホリンズワースは秘密裏に動く暗殺部隊を任された。
諜報部隊を飛び越えて、暗殺部隊の設立には驚いたが、会議の場にいた全員が満足げに納得していた。
理解に苦しむ。
俺には、こういった世界は向いていないらしい。
領地運営に力を入れて、静かに暮らそう。
そう思っていたのだが……。
「スレイド大尉には外交をお願いするわね」
「が、外交! そっちはティーレとマリンの担当じゃないんですか!」
「そうだけど、物事には順序というものがあるわ。二人は王族だし、いきなりの訪問はいただけないわ。ベルーガが安く見られちゃう。外交の場では、使者のランクも使い分けないと」
「使い分けるって……」
王族なので、俺も上ランクだと思ったら、
「王族の使者は最上級のランクね。スレイド大尉は王族だけど、血の繋がりがないから上の下ってとこかしら。出自を加味すると中の上かもしれないわね」
話を要約すると、侯爵と同等かそれ以上。それって、いまの俺の貴族階級と同じなんじゃ……。
「まあ、簡単に説明すると、貴族の階級と同じね。ただ、スレイド大尉の場合、それに若干補正がかかるくらいかしら」
「補正って?」
「王女様二人をたらし込んだって補正よ」
「…………そういうの、要らないんですけど」
「そうかしら? 美談だと思うけど。困難な旅をともにして育まれた恋。魔族のお姫さまには慈愛の手を差し伸べ、もう一人の王女様は敵対しつつも、最後には告白させるにまでいたった。恋愛小説にしたら売れると思うんだけどなぁー」
エレナ事務官が、リュール少尉をチラ見する。
作家志望の青年士官は、手にしたメモに書き込んでいる。
小説化、するつもりなんだ。
とまあ、いろいろあって外交の仕事が増やされた。
ついでというか、使者のランクを上げるという理由で公爵に陞爵。
誰もが羨む公爵位への昇進は嬉しいが、いろいろと引っかかる。なんというか、やっつけ感が満載だ。侯爵になるまで散々引っぱってきたのに……なんだかなぁ。
「よかったですね、あなた様。功績が認められて!」
「うむ、これでおまえ様に文句を言う不届き者も減るだろう!」
妻たちが褒めてくるので何も言えない。
もしかして、これを見越しての発言か? 帝室令嬢の狡猾な一面を垣間見た気がする。
仕事が増えるのは嫌だったが、エレナ事務官の「外交任務中は〝にゃんにゃん〟から解放されるわよ」という悪魔の
みんなが言うように、俺はチョロいのだろう。しかし、〝にゃんにゃん〟免除の
二十四時間年中無休に近いワンオペブラックから逃げるべく、見え透いた餌に飛びついたわけである。
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