§12 この惑星の教会事情を調査しました。 main routine ラスティ
第400話 会議①
カニンシンの自害からかなり経って、王都の治安も回復した頃。
あつまったのは王族とその側近だ。
アデルに三姉妹、そして身内のエレナ事務官と俺、リブ。側近はエメリッヒとその奥さんたち。四卿の二人。あと俺の奥さんたちと、リュールにホリンズワース。
議題はベルーガの今後について。
復興事業や農業政策、経済成長に力を入れてきた。それらは特に問題なかったが、軍事と外交でいろいろ。
まずは軍事の専門家が説明を始める。エメリッヒだ。
「現状の兵力は全盛期の七割五分だ。治安が戻り、帰るべき故郷が安堵されると、さらに兵力は減少するものと予想される。主に義勇軍。彼らの離脱によって、兵力は最盛期の六割にまで落ち込むだろう。戦乱を機に野盗化した者たちも少なくはない。徴兵の必要性が出てくる」
我らが軍事顧問の言葉に、エレナ事務官が答える。
「兵を
「事情はわかる。しかし西のランズベリー南西のマキナ、警戒すべき敵が残っている。内紛で動けないザーナ都市国家連合もこれからどうなっていくかだな。それともう一つ懸念が。マキナよりもさらに南だ」
「大陸南部の鉄国と緑国ね。離れているから詳細しい情報は入ってこないけど、争いがつづいているみたい」
警戒すべき国は多い。唯一の救いは東にある草原の軍国ラーシャルードだ。
何百年と友好関係を結んでおり、ルチャという王族の窓口もいる。収穫した食料も余剰分をあの国に輸出しているので、友好関係にヒビが入る恐れはない。マキナみたいに裏切ることはないだろう。
となると注意すべきは議題にのぼった国々だな。
政治とか戦略とか、あんまり関わり合いたくないんだけどなぁ。
一応、俺も軍人だ。戦争のことならば真面目に聞くが、起こってもいない争いについてあれこれ考えたくない。ああいう面倒臭いのはお偉いさんの仕事だし。俺みたいな下っ端士官は、渡された計画書通りに動くだけ。そりゃあ、予期せぬアクシデントや突発的なイベントには対応するけど、現場レベルの話だ。
ややこしそうなので、フェムトに丸投げしよう。
【会話の記録と情報の紐付け作業を頼む】
――ラスティ、尉官ならちゃんと仕事をしてください。AIの担当分野はあくまでもサポート。そこのところ、忘れないように――
【大軍を率いた経験って無いに等しいし、政治や戦略は上層部の仕事だろう。大尉向きの仕事じゃない】
――士官ならばある程度は知っておくべきです――
【誰も全部任せるとは言ってない。情報の整理と、フェムトなりの考えを教えてくれって言ってるんだ】
――…………――
なかなかしぶとい。
【だってさ、こういう繊細でデリケートな作業って、お堅い思考ルーチンの第八世代や第九世代じゃ無理だろう】
――そうですね。第九世代には荷が重すぎます。柔軟な思考をもつ第七世代向きの仕事ですね――
【だろう】
――仕方ありませんね。今回だけですよ――
【さすがは相棒。持つべきAIは第七世代だ】
――当然です!――
相棒に丸投げしたので、会議に意識を戻す。
迂闊に口を開くと、お馬鹿さんなことがバレるので口にチャックも忘れない。
帝室令嬢と軍事顧問の会話を
「どんな手を打つつもりだね?」
「そういうことはエスペランザ准将のほうが詳しいんじゃないの?」
「私の専門は軍事だ。政治は不得手と考えていただきたい」
「あらそう? そっちのほうも才能があるんだと思うんだけど」
エレナ事務官は意味深に言うと、エメリッヒの妻たちへ目を向けた。魔族メイドの二人組だ。
「私もそう思います。エメは素晴らしい人ですから」
「フローラ、根拠の無い過度な期待はいけません。エメが困ります。そうですよね」
緑髪緑眼の色白美人は肯定的だが、黒髪金眼の褐色肌は否定的だ。見事に意見が分かれている。
一見すると賛否両論に見える一幕だが、これには大きな落とし穴がある。緑髪緑眼のフローラだ。彼女は感情を挟みすぎだ。エメリッヒを盲信している傾向がある。
対して黒髪金眼のミスティは冷静に分析している。物事を一歩退いたところから見ているようで、エメリッヒのように思慮深い。両極端な奥さんだ。
「一応、聞いておくわね。二人の根拠は?」
「エメは博学で私たちの知らないことも知っています。政治でもその知識を遺憾なく発揮するでしょう!」
「思慮深いエメが、不得手だと言っているのです。間違いないかと。それに、軍事以外では抜けているところが散見されます。その点を加味してのことでしょう。優秀であるがゆえに、自身の欠点にも気づく。凡百の貴族や学者のように慢心することなく、冷静に自己分析されています」
聞いた話では、フローラは軍を率いる才能に秀でていて、ミスティは裏方で輝くタイプらしい。なるほど、二人の長所がよく出ている。
帝室令嬢はどう判断するのかな?
「賛否両論ね。今回は本人の意見も入れて二対一。エスペランザの政治参加は見送りにしましょう」
「……余は、軍事顧問殿でも務まると思うのだが」
アデルが口を挟むも、
「こういうときは本人の意向を尊重するものよ。才能があっても本人にやる気がないと駄目。わかった?」
「わかった。本人の意志が重要なのだな。しかし、エレナよ。軍事顧問殿が駄目となると、政治に関する相談は誰にすれば良いのだ?」
「とりあえずは内務卿のベリーニ様、財務卿のロギンス様ね。後任はその令息・令嬢。あっ、お二方、令息・令嬢には、このことを内密に。みんな若いから、国家の重鎮として抜擢することが内定して、変にこじらせても大変だし」
「妃陛下、言われずとも黙っております」
「左様、息子や姪もそれなりに経験を積んだとはいえ、まだまだひよっこ。下手に自信をつけさせては、慢心して身を滅ぼしかねませんからな」
「ベリーニ様、ロギンス様、ご理解ありがとうございます。スレイド大尉、あなたも漏らさないように」
突然、話を振られてビックリした。
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