第397話 総括



 査問会からつづく、一連の事件。


 真の黒幕はベルーガの亡霊なる秘密結社らしい。

 そのことを把握しつつも、王家は威信のため暗殺依頼を出した者たちを捕縛した。


 暗殺者集団〝黒石〟に俺を殺すよう依頼した者だ。

 驚いたことに、〝黒石〟に依頼を出したのは穏健派の貴族たちだった。


 貴族でありながら目立ったところがなく、派閥争いにも関与していない。

 分をわきまえた善良な貴族たちという印象を持っていたのだが、それがそもそもの間違いだった。


 彼らもまた名誉や体面を重んじる貴族だったのだ。


 論功行賞の場で、リッシュの名が挙がり出世していった。そのことが、彼らの目には開国派が重用され穏健派が軽んじられている、と映ったらしい。


 それに加えて革新派や王道派が制裁を受けた。追い打ちを駆けるようにエレナ事務官の立ち上げた新派閥、融和派の誕生。


 革新派や王道派の制裁は身から出た錆びだが、穏健派はちがう。特に目立った功績がなかったので、功罪無しと変化はない。


 数が減った貴族の分、王城に詰める高官を民間から補充した。主張することなく、マメマメしく王家に仕えていた彼ら貴族からすれば、さぞかし改革だっただろう。


 なるほど、一連の流れを邪推すると、穏健派がしいたげられているように見えなくもない。穿うがった見方をする者ならば危機感を抱いてもおかしくない。


 穏健派の貴族たちは、次は自分たちが制裁される番だという結論にいたった。……だから暗殺を目論んだのだ。


 謀略渦巻く貴族社会に生きるがゆえのはやとちり。いや、組織としての悪しき因習か……。


 成否が未来に直結する社会は好ましくない。失敗を恐れ、チャレンジする者がいなくなってしまう。そうなると社会は停滞し、誰も彼もが他者の失敗をあら探しする。出世のためだ。


 息つくことすらままならない競争社会。行き着く先は、歩むことを諦め、失敗をなすりつけ合けう歪んだ平和。


 そういうのは嫌だ。


 とはいえ、人を殺すのは良くない。大罪だ。俺が許しても、暗殺を企んだ貴族たちには厳罰が下るだろう。

 そうしないと組織――ベルーガの統治に綻びが生じてしまう。


 それにしても味方だと思っていた穏健派から恨みを買っていたとは……。


 ヴェラザードの言っていた、ベルーガの亡霊とやらをどうにかしないとな。


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