第394話 現場確保!



「それにしても男爵様、『吹き荒ぶ銀閃』を捜せなんて、一体どういった風の吹きまわしなんですか?」

 ケモ耳三人組の一人、ノッカーが鼻をヒクつかせながら言った。


 目、耳、鼻とナノマシンを超える超感覚を有する彼ら獣人は、人捜しに持って来いの人材だ。


「いろいろと思うところがあってね」


 ぼかして言うと、痩身のケモ耳娘フリートウッドが突っ込んでくる。

「取り逃した一人ですか」


「そんなところだ」


 城下町を走る。

『吹き荒ぶ銀閃』の匂いを追って、たどり着いたのは人気の無い倉庫街。


「こっちから匂いがする」

 ノッカーが路地裏へ入っていく。


 俺たちもつづいた。

 ドアのある場所へ行くと、見覚えのある人物がいた。

「旦那、お早いおつきで」

 元傷痍軍人のロッコだ。


 気がかりだったので、尾行を頼んでおいたのだ。


「なかに誰がいる」


「三名。生き残り全員です」


「…………」


「冒険者なんで武装してますぜ」


「それ以外は?」


「アッシの知る限り、三名だけです。空き家状態なんで、倉庫番も通っちゃいません」


「悪事を働くのには持って来いの場所だな」


 ドアを蹴破ろうとしたら、ロッコが手の平を突き出した。


「ここはおまかせを」


 どこからともなく、ねじくれた針金を取り出す。それを鍵穴に突っ込んでコチョコチョやりだした。

 しばらくして、カチッと音が鳴った。


「先に入りやすぜ」

 と、ドアを開けて静かに入っていく。

 裏方仕事に慣れているロッコのあとに、俺たちもつづいた。


 暗がりのなか、足音を立てぬよう注意しながらゆっくり進む。


 十歩ほど進んだところで音が聞こえてきた。

 ドスンドスンと重たい物を叩きつけるような音だ。


 さらに進むと、別れ道。左右を見ると、右側に手招きするロッコがいた。


 近づくにつれ、次第に大きくなる物音。

 ドアの前に来ると、ロッコは蹴る動作をした。

 蹴破れということらしい。


 一度振り返り、後続のみんなにハンドサインを送る。

 頷き返してくれたのを確認してから、ドアを蹴破った。


 部屋のなかに躍り込む。


『吹き荒ぶ銀閃』のメンバーが揃っていた。


 髪を掴まれ、無理矢理立ちあがらせられる赤髪のパメラ。パメラの髪を掴んでいるのは、錬金術師かと見紛うほど肥大化した巨躯のシモンズだ。頭脳労働がメインの彼に似つかわしくない、丸太のような腕には、裂けたとおぼしき袖の切れ端が絡みついている。


 そこから離れた場所に、腰だめにナイフをかまえるアッシャーがいた。変貌したシモンズに殴られたのだろう。アッシャーの顔には青丹ができていた。以前見たときよりも抜けている歯が増えている。


「シモンズッ、それ以上動くなッ!」

 腹に力を入れて大声を張りあげるも、シモンズはとまらない。


 丸太のように太くなった腕を振るい、パメラを殴り飛ばす。


 あの重たい物を叩きつけるような音は、パメラが壁や床に叩きつけられた音だったのだ。


 なんとか逃げようと、手足をばたつかせるパメラ。

 シモンズは首をゴキリとならして、足を引きずるように歩きだす。


 彼女を助けようと腰の剣を抜いたところで、アッシャーが走りだした。

 体当たりする要領で、背後からシモンズを刺す。

「すまない、シモンズ。これしか方法がないんだ!」


 アッシャーはナイフを引き抜くと、振り返るシモンズの胸を突いた。

 突いた二箇所は急所、致命傷だ。


 殴り飛ばされるアッシャー。


 巨躯のシモンズは腕を振りまわす。ほとばしる鮮血を意に介せず暴れること一分。

 シモンズは倒れた。


 死体となった錬金術師の側で膝をつき、アッシャーがむせび泣く。

「すまない。本当にすまない。俺がもっとしっかりしていれば、こんなことには……」


 死者となったシモンズの目を閉じてやると、アッシャーは倒れているパメラに駈け寄った。


「毒がまわりきる前に解毒薬を……」


 懐から小瓶を取り出し、ぐったりとしているパメラの口に…………。



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