第392話 謎の存在


◇◇◇ ???視点 ◇◇◇


〝黒石〟の頭領は死んだ。

 無能だったから死んだ。

 殺しの美学という小銅貨一枚にもならないプライドに拘っていたから死んだ。


 石でできたナイフ、そして死を恐れぬ手下の特攻。それを〝黒石〟の矜持としていた。


 薬漬けの捨て石どもは、簡単な命令しか実行できない。

 薬が効きすぎて、知能が低下しすぎているのだ。肝心なとき考えない。ゆえに、計画のちいさなほころびが失敗に繋がる。


 いままでは入念に計画できたからよかったものの、王族を狙うとなると勝手がちがってくる。


 王城は謎が多い。秘密の抜け道に、素性を隠した密偵、無名の腕利き。

 暗殺は手探りだ。


 いつもは綿密に計画を練っていたが、王族暗殺だけ穴だらけ。だから殺し損ねた。

 殺しの美学に拘るがゆえに、失敗を招いてしまったのだ。


 その代償は大きく、結果として頭領は命を失った。


 しかし、〝黒石〟は滅んでいない。


 俺という、新たな頭領がいる。優秀で若くしたたかで、そして機転が利く。美学や矜持に拘らない冷徹怜悧な新しい頭領。

 薬のレシピを引き継げなかったのは手痛いが、似たような物ならつくれる。手口に拘らなければ、それで十分だ。


 とりあえず実験をしよう。俺のつくった粗悪品の……。


 この薬でどこまでやれるか……。


 最初の生け贄は……そうだな、ダーモットがいいだろう。あいつはアレを見た。勘のいい男だ、いずれ気づくだろう。はやめに始末したほうがいい。


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