第391話 勝ったはいいが……



 暗殺者集団〝黒石〟を殲滅せんめつした。


 岩場に潜伏していたのは、どうやら首領一味だったらしい。一人だけ黒い仮面を被った男がいた。そいつが首領だろう。


 仮面以外の特徴はない。どこにでもいそうな感じの顔で、印象が薄い。暗殺者に向いているとされる影の薄い面相だ。


 国から懸賞金がかかっているので、死体は当然のこと所持品も国が回収する。

 そのことに異論は出なかったが、アッシャーから黒い仮面をくれと言われた。


「ただの仮面だぞ」


「それでいいんです。ゲルトルートの墓に……手向けとして」


「仇を討ったと?」


「はい、自己満足ってことは理解しています。ですけど、俺なりにケジメをつけないと前に進めない気がして……」


 黒い仮面からは魔力を感じられない。魔道具のような術式も描かれていないし、いいかな?


「契約書を読んだだろう。国に納める規定になっている。だけど、まあ、しらべて何も出てこなかったら、アッシャーに渡すようには頼んでおくよ」


「……ありがとうございます」


 それから王都へ帰ったのだが、道中でアッシャーたち『吹き荒ぶ銀光』は隠れるように言い合いをしていた。


 おそらくゲルトルートを失った責任を追及しているのだろう。


「俺が言いたいのはそうじゃねぇ。……おい聞けよ」


「ダーモットよせ。アッシャーも辛いんだ」


「パメラ、ちがうんだ。俺が言いたいのは……」


「ああ、そうさッ! 俺がゲルトルートを殺したようなもんだ!」


 恥じ入るような密かないさかいがつづき、旅の最終日は昏い一日になってしまった。



◇◇◇



 別れ間際になって、神妙な顔をしたダーモットがやってきた。


「男爵様よ、実は気になることがあってな」


「気になること?」


 彼は一度周囲を見渡して、仲間が近くにいないことを確認した。それから、

「ゲルトルートのことだ。腑に落ちねぇ」


 勿体ぶった言い方だ。情報料でも欲しいのか?


 懐に手を入れようとしたら、ダーモットはその手を掴んだ。


「そうじゃねぇ。嫌な予感がしやがる。俺はよ、いろいろと経験を積んでいるが、頭が悪い。だからあんたに…………」


 言葉をつづけるよりも先に、パメラの声が届いた。


「ダーモット、何を片付けサボってるの。はやくしないと怒るわよ」


 ダーモットは後ろを振り返って仲間を見やる。


「男爵様よ、滝裏で手に入れた戦利品。あれに答えがあるかもしれねぇ」


「戦利品?」


 そういえば、滝裏で仲間同士で殺しあった死体を見つけたな。死体漁りをしていたっけ。

 精神衛生上よろしくないので、その場に立ち会っていない。


「あんた王族なんだろう。だったらできるはずだ」


 不可解な言葉を残して、ダーモットは仲間の元に走った。



◇◇◇



 厄介な〝黒石〟を壊滅させたが、どうもスッキリしない。


 ゲルトルートという死者を出したせいか? それとも逃げた一人を見失ったことか?


 まことに遺憾ながら、宇宙軍の誇るサポートAIとドローンをもってしても、ゲルトルートを殺した一人を発見できなかった。


――地下に隠れたか、宇宙軍並の遮蔽装備を持っていたか……もしくは転移魔法で遠くへ逃げたか。これにつきましては、AIの責任ではありません。ドローンの責任です――


 失敗をドローンになすりつけて、フェムトは沈黙した。


 それほどの準備があったのなら、なぜ首領とおぼしき仮面の男は逃げなかったのだろうか? 〝黒石〟から先に仕掛けてきて、あっさりやられるのはおかしい。俺が手を貸して圧勝ならわかるが、突入したバリントンたちが連中を始末した。


 情報を吐かせるため、何人か生け捕りにする予定だったのだが、アッシャーが毒だと叫んだので、全員斬り殺した。

 俺の指揮能力が低いのもあるだろうが、即席の部隊編成が仇になった。


 それにしても、いろいろと腑に落ちないことが多い。


 別れ際に残したダーモットの言葉だ。


 彼は何かを知った。しかし、それが何かまでわからなかったようだ。


「モヤモヤするな。解けない謎ほど、気になるものはない。俺もあまり頭は良くないし。相棒に聞こうにもサンプルが少なすぎる。どうしたもんだろう?」


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