第387話 冒険出発!



 今回の冒険ルートはドローンで調査済みだ。エクタナビアの失敗から学習して、エレナ事務官から軍事ドローンを支給してもらった。事前に暗殺者の姿を発見できていれば良かったのだが、ドローンの眼では捉えられなかったようだ。


 リュールの言う通りガセネタならいいのだが……。


 ドローンで思い出したが、宇宙軍の裏切り者は、まだマキナに滞在している。


 宗教色の濃いあの国で暮らしているようだ。

 同じ宇宙軍の仲間を殺した連中にしてはのんびりしている。かれこれ一年近くあの国にいる。


 殺人鬼じみた連中だとエレナ事務官から聞いているが、動きがないところをみると、誰かに雇われているようだ。


 その辺のこともあって監視につけるドローンの数を増やしているが、これといった収穫は無い。

 当分は様子見だな。


 ドローンの計測結果をもとに旅程を組み立てる。問題がなければ四、五日で終わる冒険だ。腕の立つ冒険者も雇っているので安心。気楽に行こう。


 同行する仲間たちに旅順を発表する。

「まずは滝を目指そう!」


 一番遠くの滝から始まり、王都へ帰る道すがら洞窟、岩場へと立ち寄る。一筆書きのルートだ。


 遠くの滝からしらべるとあって、ジェイクや冒険者から変な目で見られた。みんな物言いたげだ。


 しかし、異論は認めない! 一度、滝の裏側に行ってみたい!


 滝にたどり着く前に〝黒石〟と遭遇したら、滝裏へ行くチャンスを逃してしまう。

 そんな思惑もあって、このルートに決定した。


 魔術師のゲルトルートが声をあげる。

「岩場から始めたほうが効率的なのでは?」


 抜かりはない。言い訳はすでに考えている。


「全部まわるからね。遠回りになるけど、待ち伏せも考えて裏から行くことにした。リスクは少ないほうがいい」

 もっともらしい提案をして黙らせた。


 みんな怪訝な表情をしているが、雇い主は俺だ。それに依頼が終了したら、追加でボーナスを出すのだ。これくらいの我が儘くらい聞いてくれてもいいだろう。


 てくてく歩いて、行きはのんびり旅を満喫する。

 王都から近いだけあって、魔物と遭遇することはなかった。


 薬草を採取しながら、道なき道を進む。


 初日は夕暮れ近くまで強行軍で突き進んだ。二日目の昼過ぎには滝に着くだろう。そこで一泊して、三日、四日で洞窟と岩場をしらべる予定になっている。五日目は旅程に狂いが生じたときの予備日だ。


 そんなわけで、ズンズン進む。


 王都南西は農耕に適していない土地なので、荒れ地が多く、石ころだらけだ。

 水源も乏しく、川や湖は存在しない。砂漠のオアシスみたいに、稀に水溜まりがあるくらいだ。渓谷に川が流れているらしいが、水は海へと一直線。山脈に挟まれているので、基本水は流れてこない。豊かな水源があるのはもっと東だ。


 点在する低木林地をいくつか越えたところで、お目当ての滝が見えてきた。


 ぼんやりと遠くに見える滝には綺麗な虹が架かっており、鳥とおぼしきちいさな点がいくつも飛んでいる。

 滝は遠くから視認できるほどの大きさだ。その裏側に大きな空洞のある。滝裏のスペース、一体どんな場所なのだろう。はやく見てみたい!


 ちょっとした冒険ツアーだ。

 最近、この惑星の自然にも飽きがきていたので、嬉しい初体験になることを願う。


 距離を稼ぐため、頑張って歩く。


 日が沈み、太陽が赤くなり始めてから設営に取りかかった。


「もうすぐ日が沈むぜ」

「こんなんじゃ、飯を食うのは夜中だぜ」

「あ~、休憩時間がぁ」

「歩き通しでもうヘトヘト」

「欲をかきすぎたね。こりゃあ、明日に響くよ」


 護衛の人たちから非難囂々ごうごうだ。


 依頼主の前でそれを言っちゃ駄目だろう、と思いながら、地面に転がっている石を除けていく。

 ジェイクも手伝ってくれた。


 出会った頃のジェイクなら、冒険者たちの非難に激しく怒っていただろう。それを考えると、この男も成長したな。

 猪突猛進の騎士見習いから、空気の読める騎士にクラスチェンジした感じだ。


 黙々と石を除けていく。

 地面に転がっている石ころが無くなると、テントの出番だ。これを組み立てれば設営はほぼ完成。調理に必要なカマドやトイレは、土魔法があるから、ささっとつくれるだろう。


 荷物の軽量化のため、サバイバルキットからテントを二つ持ってきている。ティーレと旅したときにつかった五人用のテントだ。調査隊は十人編制なので、あぶれることなく寝床にありつける。


 テントを組み立てるといっても、地面に置いてセンサー部分を強く叩くだけだ。あとは自動で組み上がっていく。


 完成予定の大きさを考えながら、テントを地面に置いて、センサー部分をぶっ叩く。

 護衛のみなさんがブーブー言いながら設営をしているなか、テントが形状記憶ペーパークラフトのようにパタパタと独りでに組み上がっていく。その様子を見るなり、みなさんの態度が一変した。


「すげぇー、あんなちいさな荷物が立派なテントになった!」

「便利な魔道具ね。私も欲しいわ」

「高そうだな……」

「なかも広そう」


 さすがは宇宙軍標準の便利アイテム。この惑星の住民も便利だと理解してくれたようだ。


 科学の素晴らしさが認められたところで、アッシャーが手を叩いた。みんながそっちへ振り返る。

「ぼやぼやするなぁ。はやく俺らのテントを組み立てよう。じゃないと休憩時間が減るぞ」


「そうだな。俺らのテントを建てないと!」


 一時雇いの非正規であろうと、俺はブラック扱いをしない! 職場環境はホワイトだ!


 残っているテントも組み立てる。


「君らもつかうといい」


「本当ですかッ!」


「ありがとうございます。カマンベール男爵!」


 感謝の言葉をいただく。なかなか良い気分だ。宇宙でボランティア活動をしている金持ちの気持ちがわかった。


 それから、自慢の夕食を振る舞った。

 こちらも絶賛された。


 その日は強行軍の疲れもあって、はやく寝た。


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