第386話 ピンハネ



 例によって付け髭の変装をして、王都の外へ行く。お供はジェイク。


 妻やお妾さんたちには工房の視察だと言ってあるので問題ない。

 ホルニッセとフェリオはお留守番だ。あの二人がついてくるとなると、お妾さんが勘繰る。


 いまいち頼りない護衛だが、ジェイクにも実戦を積ませないとな。


 城門を出たところで冒険者たちと落ち合う予定だ。


 待ち合わせ場所へ行くと、すでに冒険者たちがいた。二組のパーティーだ。

 普通の五人パーティーと、ローランみたいに耳や尻尾のある三人パーティー。

 相手が名うての暗殺者集団だから二組も用意してくれたらしい。出費が嵩みそうだ。


 馬から下りて、挨拶する。

「依頼を出しただ。よろしく頼む」

 思いついた偽名を名乗る。


 この旅ではカマンベール男爵に成りきろう!


 五人パーティーの一人、結んだ前髪を後ろに流したポンパドールの少年と握手を交わす。

「俺は『吹き荒ぶ銀閃』のリーダーを務めているアッシャー。精霊神殿の神官もやってる」


 アッシャーがニッと笑うと、歯が抜けているのが見えた。神官で冒険者をするのは大変みたいだ。


 お次は短い赤毛が印象的なモデル体型の女性。

「パメラ、剣士よ」


「ダーモット、盗賊上がりの斥候だ」黒髪猫背の壮年男。裏家業経験者なのか、ギラつく目をしている。


「シモンズです。錬金術師をやっています」高身長の背筋の伸びた眼鏡。なよっとしているが男だ。


「ゲルトルード、魔術師」眠そうな目で杖を抱くように持った銀髪女子。

 一通り握手が終わると、アッシャーは全員Aランクのパーティーだと自慢した。


 なんというか、Aランクらしからぬ緩いパーティーだ。リーダーはアッシャーになっているけど、真の実力者は誰なんだろう?


 つづいて、ケモ耳三人パーティー。

 こちらはケモ耳尻尾とファンシーな人たちだ。見た目に反して表情が硬い。ムッとしている。


 とりあえず握手を交わす。


「『紅蓮の咆哮』のバリントン。見てわかるように女だ」

 ガハハッと笑いながら握り返してくる力は男以上。それにデリケートな部分だけ皮鎧の際どい衣装にもかかわらず色気は皆無。いわゆるガチムチ女子。婚活は大変そうだ。


 二番手は小柄な男。やたら鼻をヒクヒク動かしている。

「ノッカー。いろいろと役に立つぜ」


 最後に細身の女性だ。

「フリートウッド、弓には自信があります」

 ケモ耳尻尾のスペックは高いらしいが、魔術をつかえる者は皆無。その代わりにバリントンから順に、鼻、耳、目と常人を凌駕する精度を誇るらしい。


 試してみたら、ナノマシンで強化したよりも感度は高かった。


【フェムト……俺たち負けてるぞ】


――個体差というやつでしょう。総合的には勝っているので問題ありません――


 負け惜しみなのか、サンプリングを提案してこなかった。


【あの三人はサンプリング対象な】


――…………了解しました――


 いつもなら第七世代は……と自慢がつづくはずなのに、今日に限って素っ気ない。

 そのうち、マリンみたいにサンプル扱いしそうだ。


 相棒が変な提案をしてこないうちに、冒険に出よう。


「今日調査するのは…………」

 つくってきた簡易地図を手渡して、目的地三カ所を巡ることを通達する。


 彼らの依頼料だが、成功報酬がパーティーごとに小金貨一枚。日当が各人大銀貨二枚となっている。

 調査予定は五日。全部ひっくるめても報酬は小金貨一〇枚。

 Aランクでこれだ。命懸けの護衛のわりに薄給な気もするが、アッシャーらに聞くとこれでも相場より高いらしい。


 ちなみに、俺がギルドに支払った金額は大金貨一〇枚。ブラック企業すら笑って許せるピンハネ率九割。ある意味、鬼である。


 冒険者という仕事には一攫千金の夢があると思っていたが……。厳しい惑星社会のリアルを垣間見た気がする。

 いまさらながら冒険者にならなくて良かったと思う。


 成功したら、彼らにはギルドに内緒でボーナスを支給しよう。うん、それがいい。


 でないと、俺がブラックに染まっていきそうだ。


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