第363話 逃亡のシナリオ
「カーラってタフだよな……」
思っていることが、つい口に出た。
すると、話を振っていないのに、なぜか相棒が通信してきた。
――愛のなせる技です!――
【それティーレのときも言ってなかったか?】
――言いました。それが何か?――
【…………】
――ラスティ、いい機会なので言っておきましょう――
【何を?】
――独占欲が強いのはティーレだけではありませんよ――
なんだとッ!
衝撃の事実だった。妻たちのなかで悪目立ちするティーレだが、ほかの妻も独占欲の強さは似たようなものだと相棒は言うのだ。
その理由を知りたい!
――本来、女性とは……――
そこからクドクドと説教が続いた。最後に、女の子って独占欲強いよね、という結論にいたった。
二人っきりになると異様にデレるカーラ。
独占欲が突き抜けているティーレ。
恐ろしいくらい純粋なマリン。
絶対に逆らえないホエルン。
そして、狡猾なアルシエラ。
どれも最終目的は俺の独占と、やはり独占欲が強いという結果になる。
最近はそこに妾勢が加わっているのだから、俺の負担は大きい。
妻から、妾から、王都から逃げ出したい。
そんな思いが最近よく頭に浮かぶ。
【なぁフェムト。いい手はないか?】
――用事をつくればいいのでは?――
【どうやって?】
――そうですね……。この惑星の住民では解明できないような不可解な事件をしらべるとか――
不可解な事件か……。
そういうのは魔術師とか錬金術師とかの仕事じゃないかな。俺みたいな貴族には…………あっ、俺って魔術師じゃん!
――そういった事件は、ちいさな集落や村でよく起こります。宇宙でも老朽化したコロニーや辺境惑星の古いベースキャンプで不可解な事件がありました――
【幽霊ってやつか?】
――存在はしませんが、まあその手合いです――
幽霊や亡霊のことが普通に信じられている惑星だ。探せば、そういった事件の一つや二つは出てくるだろう。
いいことを聞いた。
【フェムト、おまえ、やっぱ最高だよ】
――当然です。第七世代は…………――
自慢話が始まったので、いつものように音声をミュートした。
自由を求めて不可解な事件を探す。
俺が出張るような事件だ。そうそう簡単に見つかるわけがないと思っていたのだが……。
「実は、不可思議な事が頻発していまして」
ネタを提供してくれたのは騎士ラスコーだ。
古参の騎士は、顔が広いらしく噂話に詳しい。
「どう不可解なんだ?」
「まだ大事になってはいませんが、突如、騎士が行方不明になりましてな」
「人が消える事件なのか?」
「いえいえ、本題はここからです。その行方不明になった騎士が二、三日してひょっこり戻ってきて、こう言ったのですよ。森のなかで老婆に出会ったと。それもただの老婆ならば普通の遭難として扱われていたでしょうが。なんとその老婆が、大陸屈指の賢者〝叡智の魔女〟だというのですからな」
叡智の魔女? ……どこかで聞いたような、聞かなかったような……。
「ちなみにその叡智の魔女って人は有名なのか?」
気になって聞き返しただけなのに、ラスコーは目を剥いて驚いた。
「スレイド閣下、ご存じないのですか?」
「あいにくと……そもそも俺、こことはちがう
「であれば仕方ありませんな」
ラスコーも落ち着いたようなので、肝心の場所を尋ねる。
「ところで、その事件が起こった場所は? 王都から近いのか?」
「近いです。王都を出て二日ほど西へ行ったところにある森ですよ。そこからさらに二日、森のかなり奥のほうです。あそこはたまに奇妙なことが起きるので有名で、今回もその類かと」
運良く見つかった王都を出る口実。事件をしらべるとなると三日、いや一週間は自由になれるだろう。往復を考えると半月は自由になれる。
事件の調査は部下に任せて、優雅な独身タイムを満喫できる!
場所は森だというし、牛系の魔物でも狩ってヤキニクを食べよう! ハンモックで昼寝もいいな! となると連れていくのは気心の知れた部下たちだ。ラッキーとマウスだな。ラッキーは機転が利くし、彼に事件の調査を任せよう。
明るい未来が見えてきたぞッ!
それから、アデルに相談して事件解決のため王都を出る許可をもらった。
エレナ事務官は渋い顔をしていたが、王都近郊の治安維持という名目でゴリ押しした。
妻たちには、この間の査問会の一件を例に挙げて、弱体化したとはいえ敵対派閥にあれこれ言われない実績を積みたいと頭を下げた。
当然、俺一人の功績だ。そのことについて気合と根性で小一時間熱弁すると、さすがの妻たちも折れてくれた。
やったぜ!
敵対派閥より先に〝叡智の魔女〟を探すといった条件をつけられたが、問題ない。邪魔する奴らは蹴散らすのみ。こっちには国王陛下の命令という大義名分がある。それを盾にして追っ払おう。
さあ、久々のバカンスだ!
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