第330話 subroutine リュール_シナリオライターのお仕事です
◇◇◇ リュール視点 ◇◇◇
我らが主、エレナ様から密命が下った。
王城の保養施設――バーに勤めるブリジット経由で、その密命を知らせられたのは夕食でのこと。
「……で、大尉さん、大変やねんて」
「それと俺がどう関係するんだ?」
「なんでもストーリーを書いて欲しいんやって」
「ストーリー?」
「そうや、十日後に開かれる査問会で大尉さんの疑いを晴らすストーリー。逆転無罪、ちゅうヤツや!」
「疑いを晴らすも何も、根も葉もない噂だろう。原因自体があやふやなのに、どうやって白黒つけろってんだ」
「そこはホラ、作家志望のダーリンがチョイチョイって法廷ものの物語をやなぁ」
ハニーは簡単に言ってくれるが、十日で作品を仕上げるとなると骨だ。それも書いたことのない法廷もの。
問題はそれだけではない。
スレイド大尉の潔白を証明する物的証拠も必要になってくる。
エレナ様やエスペランザ准将は立場上動けない。それに二人の関係者もだ。エレナ様の配下は駄目だし、エスペランザ准将の息がかかった魔族メイドや軍属の騎士にも協力を頼めない。
そもそも退役した俺に来た依頼だ。政治や軍事にタッチしている面々は、まずマークされていると考えていいいだろう。
となる協力者は限られてくる。おまけにエレナ様と准将のやるべきだった仕事もこなさなければならない。
かなりハードルの高い任務だ。
動いてくれそうな仲間といえば、俺たちと同じく退役したロウシェ伍長とマッシモ衛生兵くらいか……。
伍長はなんとかなるだろうが、マッシモのおっさんは医者として多忙だと聞いている。ああ、仲間がほしい。
「ブリジット、俺たち以外に引き込めそうな連中はいないか? 王城内で起こったこと……スレイド大尉のこれまでの経緯を細かく知りたい」
「ん~、難しいなぁ。王女様たちもアカンしぃ、アシェさんやトベラもエレナ様と紐付けされてるしぃ。王城勤めの人たちは無理やと思うけど」
「鬼教官は?」
「絶対無理、要注意人物に指定されてるわ。めっさ監視キツいで。ウチらはバルの従業員やからスルーされてるけど」
「困ったなぁ。収賄の容疑がかけれてるんだ、一度くらいは帳簿に目を通しておきたいんだが……無理そうだな」
「ウチがこっそり忍び込んでもええけど、自信ないわ。王城は密偵とか多すぎ」
「だよな。こっちが捕まっちゃ、かえって逆効果だ。せめて王城の外で情報のやり取りできたらいいんだが」
ポロリと零した言葉に、ブリジットが目を瞬かせる。
「あっ、それやったらできるかも」
「無理だろう。王城勤めの連中のほとんどは城内――壁の向こうに住んでるぜ。城勤めの騎士や侍女たちは無理だろう。身分の高い貴族なら自由に往き来できるだろうけど、知り合いはいないぞ。スレイド大尉の知り合いの多くは北の第二王都に多いって聞くし」
「それがな、おるねん。まだ家督を継いでない貴族様たちが」
「そういう貴族様は、宮廷作法の見習いや文官見習いで王城に住み込みこんでいる若い連中だろう? こっそり聞き出してもボロを出しそうで怖い」
「本来ならそうやけど、特例があってな。実は…………」
ブリジットが言うには、スレイド大尉のお妾さんは特例中の特例らしい。
いろいろと込み入った事情があるらしいので、詳しい話は聞けなかったが、お妾さんたちは王城で寝泊まりできないというのだ。
協力してくれれば大尉の情報が楽に手に入るだろう。
問題はそのお妾さんとやらが協力してくれるかどうかだ。
「どうやって引き込むんだ?」
「ああ、それやったらウチに任せといて」
それから三日とたたずに、お妾さんの一人が俺に会いにやってきた。
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