第329話 subroutine カニンシン_間抜けな悪党
◆◆◆ カニンシン視点 ◆◆◆
カリンドゥラ王女殿下やカナベル元帥が一目置く男。軍事顧問のエスペランザ・エメリッヒ。
スレイド侯、捕縛の一件に立ち合った陛下の遣い。
用心深い男だと聞いている。
クラレンスは奴を籠絡しようと考えているようだ。やりやすい相手なのだろう。
軍事以外は苦手らしい。事実、部下からもそう報告が届いている。であれば、付けいる隙はあるはずだ。
家令が、部下から届けられたブツを持ってくる。
「旦那様、軍事顧問エスペランザの部屋より出たゴミにございます」
ワシは部下に命じて、あるブツを奪わせた。軍事顧問の部屋から出た、灰皿の灰だ。
今日に限って、書き損じのゴミが多い。
おそらく、ワシらがそっちをしらべると思っているのだろう。だから焼け残りの書類にまで気をつかわなかった。浅はかな男だ。
「肝心な部分を焼いているとはいえ、ゴミに出したのはマズかったな」
「旦那様、アレをつかうのですか」
「そうだ、アレをつかう。持って来い」
「残り僅かですが、よろしいのですか」
「かまわん。いまつかわずして、いつつかうのだ」
「畏まりました。ただちに復元薬を持って参ります」
復元薬。あれは高い買い物だった。なんせ親指ほどの小瓶に入った薬が、大金貨三〇〇枚もしたのだからな。
大陸屈指の賢者、そのなかでも〝叡智の魔女〟と呼ばれる賢者がつくった秘薬。生きている者には効力を発揮しないが、壊れた武器や財宝に垂らせばたちどころに元の形に戻る夢のような薬。それが復元薬だ。
ただの紙切れにつかうのは勿体ないが、スレイド侯と密談したあとに出たゴミ。つかう価値はある。
かなり度胸のいる行為だったが、ワシは賭けに勝った!
あの慇懃無礼な軍事顧問が燃やした紙には、こう書かれていた。
退役した仲間は協力を拒否した。もはや頼れるのはホリンズワースとカマロだけだ。なんとかして彼らと会う口実をつくる。それまで辛抱していてくれ。。
連絡方法がわかった。
ホリンズワースにカマロ、この二人にさえ注意していればいいのだな。
そういえば、エレナ妃陛下がときおり王城に呼びつけている者にホリンズワースという男がいたな。そいつだろう。
やり手の王妃に睨まれるのは困りものだが、妨害するのは一〇日だけだ。王道派と分担すればなんとかなりそうだ。口やかましいオズワルドのジジイも協力してくれるだろう。
それ以外に注意すべき者は……スレイド侯の女たちと、軍事顧問の女たち、少女ながら油断ならぬ王妃直属のトベラ・マルロー。密偵一族のスレイド家は……スレイド侯と接触できぬよう牢屋のある建物の警備を強化すればいいだろう。
そうだな。暗殺の恐れがあると進言して、腕の立つ冒険者を雇おう。
こちらから暗殺者を差し向けられないのは手痛いが、十日後の査問会で罪を確定させればよいだけのこと。
すでに仕込みはすんでいる。あとはあの成り上がりを処刑台へ送るだけ。
優秀なワシは、計画をより完璧にするため。企みを知っている家令を殺すことにした。
なぁに、替えはいくらでもいる。つかい慣れた家令を手放すのは惜しいが、情報が漏れることを考えれば、安い出費だ。
それにしても、まさか軍事顧問がこれほどまでに無能だったとは……。頭が切れると聞いていただけに興醒めだ。元帥のように戦うことでしか能力を発揮できないのだろう。
警戒していたワシが馬鹿だった。いや、ワシのほうが優秀だっただけか。
これでやっと、ラスティ・スレイドという厄介者を始末できる。
十日後の査問会が待ち遠しい。
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