第321話 会議③
オズワルドなる老貴族から、敵対派閥に似た悪意を感じた。
「ふむ、難しいのう。オズワルドよ、どれだけあれば足りるのだ?」
たしかに難しい。
復旧には金がかかる。単純に領地を増やせばいいという問題ではない。奨励金を出すにしても、王都周辺の貴族が黙っていないだろう。
王都のある中部、そして南部はもっともマキナ聖王国の被害を受けた土地だ。しかし南だけを贔屓にできない。
となるとアレか。
「南の都市ハンザの税収を一時的に融通してもらいたい」
間髪容れず、セモベンテが声をあげる。
「お待ちください。それでは南部に展開させている兵を維持できません」
もっともな答えだ。セモベンテの領地は南の都市だけ。それで三万の兵を維持しなければならない。将来に備えて兵を増やしたり、戦で損壊した都市の防衛機能を回復させたりと金はいくらあっても足りない。
そこへ税収無しを突きつけてくるのだ。陛下の許可を得ず反論して当然だろう。
しかし貴族たちは、そうは思わないようで、
「セモベンテ元帥、控えよ!」
「陛下の許可を得ずに進言するとはけしからん」
「不敬だ!」
ところどころで不満の声が
派閥問題で頭を悩めている俺と似た状況だ。セモベンテと和解しているし、ここは助け船を出すとしよう。
「陛下、発言の許可を」
「許す。申してみよ」
渋い顔をしていたアデルの表情がほころぶ。
「申し上げます。さすがにハンザの税収すべてというのは難しいかと存じます。セモベンテ元帥はハンザを守るという使命があります。ですから、オズワルド伯には税収の一部を一定期間与えるようにしては?」
「して、その割合は?」
「8:2、八がセモベンテ元帥です。軍を維持し、ハンザの守りを固めるのには、かなりの資金が必要です」
「ご無体な。せめて6:4にしてくだされ」
老人が吠えた。俺も負けてはいられない。
「それはさすがに無理でしょう。それともオズワルド卿はハンザの守りを四割も引き受けてくれるというのですか?」
「なっ、守りを引き受けるだと!」
「ええ、そうです。税収を得るのならば、その地を守るのが貴族の務めというものではありませんか?」
とたんにオズワルドは黙り込んだ。
当然だ。南部で徹底抗戦していたのなら、兵はかなり目減りしているはず。自分たちの領地を守るので精一杯だろう。仮にハンザの守りに兵を送れても数は知れている。セモベンテに軍配があがるわけだ。
ちらりと新米元帥へ目をやると、不敵に白い歯を剥いた。
こうしてセモベンテ有利に話が転び、最終的に税収の割り当ては7:3で決着した。
オズワルドはアタリを引いたつもりだろうが、ここからが本番だ。
俺は税収の割り当てを操作して、俺のつくった魔道具の恩恵――
やり過ぎかと思った。しかしエレナ事務官からすれば、俺の嫌がらせは笑って許せる範囲だと言う。
いろいろとアクシデントはあったものの、着実に王族の威光と権力は広がっている。
派閥争いが終われば万々歳なのだが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます