第316話 subroutine ホリンズワース_裏方の日常②


◇◇◇ ホリンズワース視点 ◇◇◇


 軍資金もできたので、舎弟のカマロと一緒に娼館巡りをした。


 カマロは若い女が好みらしい。俺の好みと真逆だ。女を抱くならそれなりに経験を積んだほうがいい。商売だと割りきっているし、抱き心地もいい。若い女は駄目だ。サービスが下手だし、ガチガチに緊張している。抱き心地も悪く、なんというか罪悪感が先に出ちまう。その気にはなれない。


 そんなわけで、舎弟のカマロとは縄張り争いならずに、〝十三姉妹〟とやらの捜索を進める。

 悲しいことに標的の尻尾は簡単に掴めた。


 たまたま入った娼館で、事後の余韻を楽しんでいたときだ。

「おまえ、香水キツイって客に言われないか?」


「兄さんが色男だから奮発してるのさ」


「ははっ、言うねぇ」

 全裸のまま髪をいている商売女――リラはそう言うと、俺にウィンクを返してきた。アフターサービスも抜かりない。イイ女だ。


 微睡まどろみながら、窓の外を覗く。

 咥えかけたタバコをベッドに落とした。


 道を挟んで向かいの娼館に、首筋に入れ墨をした女を見た。青いバラの入れ墨だ。

 身体は娼婦の商品だ。だから商売女たちは入れ墨をしないのが普通。それをあんな目につく場所に……。間違いない、例の暗殺者の一味だ。


「向かいの店、知ってるか?」


「最近できた店だよ。ここの姉妹店さ。若い娘を揃えているのが売りなんだけど、兄さんが好きなのはそっちじゃないだろう? それともやっぱ若い娘が好きとか?」


「若い娘も味見したいが、俺はリラみたいなのが好きだぜ」


「ホントかい? その気にさせて値切ろうって魂胆じゃないだろうね」


「値切るくらいなら、指名しない。おまえは最高の女だ」


「またまた、どの店でも同じこと言ってるんだろう。危うく騙されるところだったよ」


 リラはカラカラと笑う。

 商売女にしては陽気だ。陰のないところがまたいい。抱き心地も抜群なので、俺はよくこの店に来る。


 代金を支払う。

 いつもの料金に上乗せした額だ。


「兄さん、いつもより多いよ」


「多いと思うなら、ちょっと協力してくれ。なぁに、簡単な仕事だ」


「簡単な仕事でも内容によるね」

 口ではこう言っているが、乗り気なようだ。覆い被さるように身を寄せてきた。


 手短に説明する。

 貴族様から気になる女を捜していると嘘をついた。

 絡んでいる連中が暗殺者なので、そこは抜かりなく、誰にも教えずあとを追わずと念押しした。

 そのうえで、最近できたという姉妹館に出入りする女を観察するよう頼んだ。


「なんだいそれだけかい?」


「それだけだ。ただ、チラリと見るだけでいい。あまり意識してガツガツ覗くなよ」


「なんで? 見張りだろう? 意識して見ないとわからないじゃないか」


「リラの視線を感じて逃げられたら、ふりだしに戻るからな。そうなっちまうと、俺がお叱りを受けるわけさ」


「あー、なるほど。勘づかれないように注意しろってことだね」


「まー、そんな感じだ。怪しまれなきゃいい。やってくれるか?」


「いいよ。その代わり、次の指名も入れていっておくれ」


「いまさらだな。俺ちょくちょく来てるぞ」


「あー、ちがうちがう。兄さんアタイの好みだから、サービスしようと思ってね」


「いつもサービスしてもらってるけどな。こんな風に」

 リラを抱き寄せキスをする。


 キツい香水が存在を主張する。鼻腔にこびりついていた酸えた匂いが嘘のように消し飛んだ。


「相変わらず効かせてるな」

 嫌味っぽく言うと、リラは微笑みこう返す。

「嫌な男を避けるためさ」


「俺のことか?」


「兄さん以外の男だよ」


 リラの指名予約を入れてから、後日、別の女と寝た。

 これはサボりではない、捜査に進展があったからだ。

 リラとの予約は先なので、贔屓にしているゾーイとクーシェを抱いた。


 リラ、ゾーイ、クーシェ。この娼館ではまあまあ上に位置する三人だ。俺はその女たちを贔屓にしている。


 一人の女に縛られるのは、俺の主義に合わねぇ。

 人生は一度きり。だから悔いが残らないよう思う存分遊び尽くす!


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