第315話 subroutine ホリンズワース_裏方の日常①


◇◇◇ ホリンズワース視点 ◇◇◇


 コールドスリープから蘇生してというもの、ピンチの連続だった。


 蘇生した仲間は、軍の裏切り者に殺されるわ、王都奪還戦の斬り込み隊に放り込まれるわ、まわされる職場はどこもかしこも刺激的。サボれる要素がまったくない。


 いまの俺はエレナ事務官専属の手下で、カマロはそのさらに下だ。


 これが無能な上官ならサボれるだろうが、あいにくと帝室令嬢は優秀だ。気に入らないことに、馬車馬のようにこきつかいやがる。


 でもまあ、実入りはいい。日課になりつつある娼館通いをしても手元に金が残るくらい手当を弾んでくれる。その分、大っぴらにできない汚れ仕事を任されるが……。


「ホリンズワース上等兵、仕事よ。それもあなた向きのね」


「今回はどんな汚れ仕事ですか? 暗殺はもうこりごりですよ」


「そういう仕事は滅多にないわ。クリーンな政治を売りにしているから」


「……どうだか」

 上官殿はベルーガの王妃様で評判は良い。美人で、よく笑い、絵に描いたような良妻賢母を演じている。しかし一皮剥けば、血も涙もない為政者だ。


 スレイド大尉に勝てる見込みのない一騎打ちをやらせたり、施療院で暗殺者をかくまったり、命を狙われた報復に買爵貴族を暗殺したり、実におっかないご主人様だ。


 そのご主人様が命令する。

「〝十三姉妹〟って暗殺者の残党が王都に潜伏してるんだけど、始末してくれない」


「その〝十三姉妹〟って、マッシモのおっさんが働いている施療院で匿っている連中なんじゃ?」


「それとは別口。安心して下っ端よ。ソロで仕事をこなしている腕の立つ連中はマッシモが懐柔かいじゅうしたわ」


「懐柔? どうやって? 仲間をあんま悪く言いたかねぇがよ。あのおっさん、どう見てもそういう方面が得意には見えないだろう。一体どうやって手懐けたんだ」


「さあ?」

 ご主人様は、そんなことどうでもいいわとばかりに肩をすくめる。


 どうやらこの帝室令嬢、結果さえ出せばいいらしい。


「…………で、その始末する相手の特徴は?」


「〝十三姉妹〟には共通の特徴があって、みんな入れ墨があるのよ」


「どこに?」


「場所は決まっていないみたいよ。でも身体のどこかに入れ墨があるってのはたしかな情報」


「女性らしいってどんな?」


「確認してるだけで、花や女神、蝶、あとは綺麗な妖精とか」


「なるほどな、裸にひん剥いてじっくりとしらべる必要があるな。俺向きの仕事だ。予算はどれくらいつけてくれるんだ?」


「必要経費のことね。とりあえず大金貨二枚。高いお姉さんでも大銀貨一枚するかどうかだから、結構な額よ。残ったらあげるわ。あと追加がほしいのなら領収書を切っておいてね」


「この惑星に領収書なんて概念あるのかよ」


「領収書は言い過ぎたけど、経費だと主張できる根拠ならなんでもいいわ。なんなら女性のキスマークでも。こっちでスキャンしてしらべるから」


 甘々な判定のように思えるが、暗に俺を信じていないと言っているようなものだ。きっと遊び呆けないよう釘をさしているんだろう。まったく抜け目のない女だ。


「話のわかる上官様で」


「朗報を期待しているわ。でないとお払い箱だから」


「へいへい」


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