第310話 職場②
執務室に詰める部下たちと食卓を囲む。
今日の献立は特注だ。無理を頼んで、厨房の人たちにつくってもらった。レシピを渡しているので味に間違いはないだろう。
テーブルに料理が並ぶ。
タンシチューだ。それに野菜たっぷりのポテサラと、ガーリックトースト。
まずはタンシチューから。
ポテサラを一口。
マヨとポテトがタンシチューとマリアージュ。単体でも美味いポテサラがさらにワンランク上の味に昇華する。
最後はガーリックトースト。
ガーリックバターを塗って、軽く炙った一口サイズのトーストだ。外カリカリで、中しっとりに焼いている。ガーリックとバターのコンビは最強だ! 食感も良く、味、香りともに秀逸。どこに出しても恥ずかしくない逸品。
みんなの評価が気になるが、誰も何も言わない。
黙々と食事をとっている。
ドキドキしながら感想を待つ。
この部屋で、俺に次ぐグルメのエルメンガルドが、カトラリーを置いた。
彼女以外はお替わりをして食べている。
エルメンガルドは優雅にナプキンで口元を拭うと、グラスの水を一口。
いよいよ結果発表か!
「今日の昼食はいつも以上に美味しかったですね。晩餐でもこれほどの料理が出されるのは稀でしょう」
「気に入っていただけて何よりだ」
美食家に認めてもらってほっとする。
「何より? ということは閣下が考案した料理なのですか?」
財務を取り仕切るだけあって頭の回転が速い。
「そうだ。久しぶりに料理したくなってね。つくってくれたのは厨房の人たちだけど、レシピは俺が書いた」
エルメンガルドを除いた面々が、頬張りながら目を見張る。
「しかし、このトーストは美味いな。ワインが欲しくなる」
内務卿の末子エドガーは褒めてくれるが、ワインを
みんな食べ終わったようなので、シメのデザートを出す。
ヨーグルトアイスだ。ほどよい酸味、甘みを加えて、レモンの皮を削ったものを散らしている。
これも好評だった。
自画自賛ではないが、酸味のある柑橘の清涼感香るアイスは、肉料理のあとに食べると格別だ。個人的にはもうちょっとパンチが欲しかったので、今度はミントでも載せよう。うん、それがいい。
改善点も発見したとので、しばしの歓談。
上司として部下とコミュニケーションをとる。しかし仲良くなりすぎても駄目。上下関係は大事。
そんなわけでプライベートに踏み込まない程度にお喋りする。
「仕事量とかどうだ? 多すぎないか?」
考え込む女性陣と対照的に、エドガーは即答する。
「いやそれほどでもないぜ。最初の頃は大変だったけど慣れてきたからこんなもんかな」
内務卿の末子だが、どうも遊び人ぽくて信用しきれない。
判断はほかの人の意見も聞いてからだな。
次に答えたのはエルメンガルド。財務担当なので判断しやすいだろう。
「そうですね。北東の領地の仕事込みだと多いですが、王都に限っていえば物足りないくらいだと思います」
それ以外も似たり寄ったりの意見だった。
即答したエドガーは、見た目に反して判断力に秀でているらしい。覚えておこう。
午後の予定は軍務卿の姉弟に、士官、下士官の応募者の選考を頼んだ。それ以外は自由だ。
エルメンガルドに関しては、まだリハビリが必要なのでマッシモさんのところまで送ることにした。
そのことを口にした際、なぜか女性陣から冷たい視線を向けられた。理由はわからない。もしかしてセクハラ発言だったとか……。いや、無いな。無いと思う……。
きっと俺が改造した馬車に乗りたかったのだろう。
乗り心地を追求するあまり、サスペンションや軸受けのベアリング、断熱に通気性などなど魔改造したので、俺の馬車は乗り心地が良い。おそらく大陸一だろう。
その心地よさたるや、ぐずっている赤ちゃんもスヤスヤ眠るくらいだ。
知り合いたちにテスターをしてもらった評価は満点。自慢の作品なので誇らしい。ただ高額になるのが難点。そういうわけで、王族くらいしか発注してこない。それでもまあ、認めてくれるのは嬉しい。でも、利益が出ても王家経由で俺に戻ってくるので、王家には無料で提供している。妻たちへのプレゼント代わりだ。あとエレナ事務官へのゴマすり。
そんなブルジョワ感溢れる馬車なのだから、みんな話のネタに乗りたいのだと思う。
断ってもいいが、ケチンボだと思われるのは嫌だ。
「今度、親睦会も兼ねてピクニックにでも行くか?」
気を利かせたつもりなのだが、なぜかみな微妙な表情。貸し切り状態で乗って、ほかの貴族に自慢したいのだろうか? そんな娘たちじゃないと思うんだけどなぁ。
貴族令嬢の普通がわからない。そこら辺は次の課題だな。
予約している診察時間までそれほど余裕がないので、昼休憩が終わると同時に、エルメンガルドを連れてマッシモさんの施療院へ向かうことにした。
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