第298話 北スレイド領視察①
領主としての仕事があるので、俺は王都の北、マロッツェ地方にもらった領地へとやってきた。
同行者は、かつてスレイド城の代理を務めていたマリン。
ティーレたちも誘おうと思ったけど、バルで酔い潰れていたので諦めた。
王都からは馬でも半月はかかるのだが、二人だけなので影を移動できるマリンの部下――クロウディアさんとシローネさんに運んでもらった。
城門もスルーして、一気に城壁のなかへ。
魔族姉妹の影から出ると、王都と遜色のない街が広がっていた。
すぐそばにある俺の建てた城がなければ、王都と見間違っていただろう。
人通りも多いので、はぐれないようにマリンの肩に手を置いた。
幼い妻は、一瞬ビクッとしたが、俺の身体にピタリと寄り添う。
「二人っきりだなんて、なんだか新婚旅行みたいですね」
照れくさいのだろう。俯いているけど、耳までまっ赤だ。
マリンには随分と悪いことをしてしまった気がする。ティーレとちがって、すぐに夫婦になれたのに、こっちの事情に合わせて先延ばしにしてしまった。
贔屓になるかもしれないが、彼女にはたっぷりと愛情を注いであげよう。なんせ、俺の勝手で一年以上も待たせてしまったのだ。それくらいはあってもいいだろう。
本心を告げる。
「新婚旅行はもっとのんびりできるところへ行こう。豊かな自然に囲まれて、静かにゆっくりしたい。海がいいな。まだ見たことないし」
「私も海は見たことがないです」
「じゃあ、マリンとの新婚旅行は海で決まりだな」
「はいッ!」
楽しい話題に花を咲かせてから、お仕事モードに戻る。
俺の建てた城――スレイド城を守っているのは、元傷痍軍人のマクベイン。いまでは失った足も元通りになり、元気に軍人をやっている。
ちなみに派遣している文官は、ルシードとアルトゥールだったっけ。
【で、名前は合ってるよな】
――正確には内務卿の子息ルシード・ガズラエルと財務卿の子息アルトゥール・カーライルです――
【そう、それ!】
俺の部下に不足している頭脳労働のツートップだ。北部にあるスレイド領が一番広いので、優秀な彼らに運営を任せている。今日は収支の確認と、今後の発展について話しに来たのだ。
城の入り口に立っている警備兵に声をかけてから、城内へ。
自分で設計した城なので、構造は熟知している。迷わず城主の部屋――俺の部屋へ行く。
途中、何人か顔見知りの騎士や兵士と挨拶を交わした。
部屋の前に到着し、なかに入ろうとしたが鍵がかっていた。
「あれっ? 出ていくときは開けていたのに? 盗られるような物は無いのに。ったく、用心しすぎだな」
ドアを破壊するわけにもいかず、突っ立っていたら、マクベインと新しく雇った文官二人が息を切らして走ってきた。
どっちがルシードで、どっちがアルトゥールだ?
――部下の把握くらいしましょう。長い金髪がルシード。
【フェムト、今後は部下や仲間に名前や爵位の表示をするようにしてくれ】
――それくらいは管理してください――
【多分、これからもっと増えるはずだ。全員を覚える自信がない】
――…………たしかに管理すべき部下は多いですが、これくらいはAIに頼らずとも将官ならば覚えていますよ――
【じゃあ聞くけど。俺に将官の才能があると思うか?】
――…………――
長考かよ。まさか相棒にまでそう思われているとはな。泣ける。
【効率重視でいこう。優秀な第七世代なら、それくらいのサポートは簡単だろう】
――当然です! 第七世代は最高傑作! M1やM2ごときに劣りはしません!――
【俺もそう思う。惑星調査、戦闘、言語解析、領地運営のサポート。柔軟な思考を持つ第七世代のフェムトだから安心して任せられるんだ。M1、M2だとそこまで信頼できない。頼りにできるのは宇宙でもっとも優秀な第七世代だけだ】
――ラスティの期待に応えましょう!――
さすがは我が相棒、そうでなくちゃ。
「ぜぇぜぇ……閣下、来られるのならば、……ぜぇはぁ……手紙の一つもくれればお迎えしたのに……」
「「ぜぇぜぇ…………はぁ、閣下」」
マクベインは言葉を紡ぐが、あとの二人は完全に息が上がっている。
さすがは軍人、日頃の鍛錬は怠っていないようだ。しかし、文官二人組は駄目だな。戦場には連れて行けない。
マクベインから鍵をもらい受け、部屋に入る。
かなり広い部屋だったのに、山のように積まれた木箱で壁が見えない。
「これは?」
「貢ぎ物です。閣下に世話になった貴族からの礼品。婚約祝いの品々。それに王都開放に尽力され、恩を受けた貴族たち。名目はさまざまです」
「中身は確認したのか?」
「いいえ、閣下にご確認をと思いまして、こちらに収蔵していました」
「そうか。じゃあ早速だけど、中身を確認しよう。ルシード、アルトゥール手伝ってくれ」
ようやく息の落ち着いたアルトゥールが手を挙げる。
「なんだアルトゥール?」
「量が多いので、人を呼んでもよろしいでしょうか」
「そうだな、帳簿をつける人員も手配してくれ」
「はっ」
人員があつまり、貢ぎ物の確認作業に挑む。
敵は広い執務室を占拠している、高く積まれたお高い品々だ。
簡単な目録をつくり、ざっくりと資産価値を計算しただけで、丸二日を消費した。その甲斐あって、大体の金額を算出できた。
鑑定結果は、驚くことに大金貨一〇〇枚を超えた。
もっとはやく貢ぎ物に気づいていれば、ロイさんから借金をしなかっただろう。
消耗品以外を換金することにした。
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