第284話 雇用促進



 それにしても部下が必要だ。

 ともに戦ってきた仲間はいるが、彼らは戦闘がメイン。戦場では頼れる仲間だが、事務的なサポートには向いていない。


 追贈された領地の運営や財産管理、軍備にまつわる諸々の事務作業。やるべきことが何倍にも増えた。

 いくらAIのサポートを受けているとはいえ、一人では回せない。


 そんなわけで、人を雇うことにした。

 王都に張り紙をして、職員採用に踏み切ったのだが……。


「ラスティ様、どれも役に立ちそうはありませんね」

 面接を一緒に担当したマリンが、口をへの字に曲げて酷評こくひょうしている。


 同席していたホエルンにいたっては呆れかえってものも言えない状況。

「……文化水準が低いのは知っていたけど、想像を絶するレベルね」


「仕方ないよ。だって教育レベルも似たようなもんなんだから」


 妻たちをいさめるも、俺のほうがショックだ。


 スレイド領を任せているオズマのような人材がすぐに見つかると思っていたのに……。ジェイクに振るとしても、彼には荷が重すぎる。どうしたものだろう。

 それから似たり寄ったりの平民や貴族の面接をした。


 結果、収穫はゼロ。

 人間性以前に能力が足りない。

 初日から人材あつめは暗礁あんしょうに乗り上げた。


「はぁー」

 ため息が出る。


「ラスティ様、それほど人材に困っているのでしたら魔山のプルガートから人を呼びましょうか?」


「いや、遠慮しておく。これは俺の問題だ。それに、こんなことでクレイドル陛下を頼っていちゃ駄目だろう」


「こんなこと、ではないと思うのですが……」


 気を利かせてくれたマリンには悪いが、魔族を呼ぶのは気が引けた。王都の治安はそれほどよくない。下手に魔族を呼んで問題になったら、魔族弾圧が再燃しそうだ。星方教会の助けも借りたので、いきなり弾圧禁止は難しい。時間をかけて着実に進めたい。そのためにも魔族の出番は最小限にとどめなければ。


 どうするべきかと悩んでいたら、ホエルンがすり寄ってきた。なんというか、あざとい。

 マリンの刺すような目もあって、そっと押し退けようとしたら、

「だったらギルドはどう? 事務員のスカウトとか。それならパパの探している人材も手に入るんじゃない」


「……それ、いいね」


「でしょう」

 今度は腕に抱きついてきた。


 こっちを見るマリンのこめかみに血管が浮かぶ。


「名案も出たことだし、ギルドに行ってみるか!」


 勢いよく立ちあがり、鬼教官を振りきる。そして部屋を出る前に、マリンの頭を撫でた。これで彼女の機嫌もよくなるだろう。


 こうして妻たちの機嫌を配慮しながら、俺はギルドを目指した。



◇◇◇



 商業ギルドに入り、久々にギルドカードを提示する。

 若い受付嬢がそれを見るや、

「Aランク! 今日はどのようなご用件で」


「事務作業、帳簿をつけられる人材を探しているんだけど、斡旋あっせんしてくれないかな?」


「帳簿をつけることのできる事務員ですか、あいにくと出払っています。手の空いている者はいません」


「一人も、ですか?」


「ええ、一人も。帳簿をつけられる人材となると、復興事業で引く手あまたでして……」


 そうだよなぁ。王都から逃げ出した貴族様も帰ってきているし、まっさきに人材を確保するよな。こんなことなら、王都に入って一番にここへ顔を出すべきだった。

 いまさらなげいたところで人材が湧いてくるわけでもない。あきらめることにした。


 王城に帰り報告すると、提案したホエルンが、

「一足、いえ、三足ほど遅かったわね」


「そうだね。着眼点はよかったけど行動に移すのが遅すぎた。諦めて別の手を考えよう」


 ギルドまで足を運んだのに収穫ゼロ。虚しい。


 あてがわれた自室に入る。なぜかホエルンとマリンも入ってきた。

「……君たちは別の部屋だろう」


「パパが浮気してないか確かめに来たの」


「私はちがいます。ラスティ様の部屋を見たかっただけです。浮気確認はついでです」


「それって楽しい?」


「「とても!」」


 俺、そんなに信用無いのかな……。



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