第264話 攻城戦①
王都攻めはひと月近くも続いた。
西と南の城門攻略は成果を見込めなかったが、ベルーガ本体が攻める北とツェリ元帥と合流したリッシュが攻める東は、城壁へ攻めのぼるまであと一押し。順調にいけば、五日とかからずに王都へ踏み入ることができるだろう。
問題は西門を攻めているカナベル元帥の軍だ。俺と宗教勢力が合流したのだが、数は
エレナ事務官の計らいでトベラ・マルロー率いる兵一万が派遣されたのだが、裏切り者のツッペがちょくちょく攻めてくるので対応に追われている。
俺も魔法で王都攻めに加わりたいが、ツッペの奇襲に備えなければいけない。
宇宙軍の連中が、魔法の習得にもっと積極的だったらこうはならなかったのに……。
「すみません大尉殿、今回は俺らのミスですわ」
ホリンズワースは
カマロやブリジットも同様らしく、信頼できる宇宙軍の武器に依存している。
衛生兵であるマッシモは星方教会の癒やしの技を練習してくれているが、攻撃面での活躍は見込めない。
攻撃魔法習熟に熱心なのはリュール少尉とカレン少佐だけ。
もっとも、この二人にとっての魔法は単なる暇つぶしらしい。
「おっ、火が出た! 見た目のインパクトはあるけど、運用効率を考えるとイマイチだな。威力も低けりゃ、距離も短い。中・遠距離戦なら軍のライフルの方が圧倒的に有利だ」
「同感ですね。メインで扱うのには心元ありません。あくまで余裕のあるときの手段でしょう」
厳しいお言葉をいただく。
意外なことに、トベラも似たような意見で、
「接近戦では剣を振るうほうが有利です。中距離のアドバンテージはありますが、弓兵相手では分が悪いです」
おおむね魔法による攻撃は不評だ。
俺が研究した並列や直列を伝授できれば考えも変わるだろうが、フェムトにあまり広げるなと注意されているしなぁ。
目下のところ並列と直列を扱えるのは、第七世代AI『フェムト』型を運用している俺とティーレくらいだ。エメリッヒにも教えてあるが、彼は興味が無いらしい。例外として、ローランにだけ機能限定で教えてある。
宇宙軍の兵器のほうが性能も使い勝手も上なのは認める。でも、せっかく魔法の原理を解明したのだ。コスパのいい魔法もつかってほしい。
今度、ほかのAIを運用している連中にも声をかけてみよう。
緊張の張り詰めるなか、王都攻めは続く。
次第に西門を守る敵の数が減り、そして三日目の昼過ぎ。朗報が届いた。
北門があと少しで落ちそうだという。
これを機に攻勢へ転じる。
準備していた攻城櫓を出し、決死隊が城壁へとのぼっていく。
宇宙軍の部下へ新たな命令を下す。
「ロウシェ伍長、引き続きカナベル元帥の護衛を。負傷組はそのまま待機。カレン少尉はツッペの襲撃に備えてくれ」
「了解です大尉殿!」
「騎馬隊指揮の任務継続ですね。了解しました」
「ホリンズワース、俺たちは城壁だ。のぼるぞ!」
「えっ、俺もですか!」
「俺たちは指揮官って柄じゃないからな」
「あの攻城櫓をのぼって行くんでしょう。あれじゃあいい的だ、自殺行為では?」
「俺たちにはナノマシンとAIのサポートがある。最悪飛び降りればいいことだし、致命傷にはならないだろう」
「…………」
「あとリュール少尉とブリジット一等兵、君たちには援護射撃を頼みたい。帝国の訓練過程にはナイフ格闘術はないはずだ。この惑星の剣だと命を預けるには心許ない。だから射撃に専念してくれ、それとツッペの襲撃があった際は、そっちを最優先で」
「了解しました」
「了解ッ!」
「ちょっと待ってくださいよ大尉殿、それじゃあ特攻は俺たち二人だけなんですか?」
「馬鹿なことを言うな。志願を募った決死隊もついてくる」
「ってことは先頭! 死亡確定じゃないっスか!」
「後続が続くんだ。単機突撃よりはマシだろう。それにホリンズワース、自慢できる手柄が欲しいって言ってたじゃないか」
「あ、あれは言葉の
「…………」
コイツ、妻帯者の俺の前でよくそんなことが言えるな……あとでホエルンに密告してやろう。
「……あのう大尉殿、もしかしてフォーシュルンド教官に告げ口とか考えてませんよね」
「そんなことはないぞ」
自分でも驚くくらい、自然に嘘が出た。
勘の鋭い男だ。昔の俺だったら動揺していただろう。しかし、いまの俺は妻たちという四勢力に囲まれた生活を送っている。嫌でも嘘が上手くなるさ。
「…………本当ですか?」
「本当だとも、苦楽をともにする仲間を裏切らない。でもまあ、俺の命令を聞けないってのなら話は別だけど」
「…………」
ホリンズワースは
しばらくして口を開く。
「鬼教官に地獄の特訓をつけられるくらいなら、俺、特攻します」
「いい返事だ。それでこそ連邦の兵士だ。では
攻城櫓の出発とともに、俺とホリンズワースも続いた。
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