第263話 subroutine カナベル_救いの手②
◆◆◆ カナベル視点 ◆◆◆
あまりにも自然な歩みに、一瞬、呆けてしまった。
スレイド候の部下に何かあっては問題だ。引き留める。
「ちょっと待ってください、ロウシェ殿。敵は馬上の将です、徒歩では分が悪いのでは?」
「あー、大丈夫大丈夫。馬に乗るとかえって動けなくなるから」
「そういう意味ではなくて、まともに攻撃が届かないのではと……」
「無問題。任せてください、きっちり討ち取ってきますから」
ニヤニヤ笑うと、糸目の女性兵は兵士の隙間を縫うように頭を揺らして歩いていった。
「大丈夫なのですか? 彼女の身に何かあったら私がスレイド侯に怒られます」
「安心しな、ロウシェ伍長は近接専門だ。馬上の敵だろうと負けやしない。問題は
「えっ、指揮官狙いや無いのん?」
「旗数が減りゃ、相手もビビる。なんせ味方の目印が激減するんだからな、大いに士気が下がるはずだ。そこでデカブツが討ち取られたら、奴ら蜘蛛の子散らしたみたいに逃げるはず。上手くいけば一気に城門をこじ開けられる」
「なんか、ようわからんけど、やってみるわ」
「実弾じゃ無いぞ、レーザーだ」
「わかった」
返事をすると、ブリジットと呼ばれた少女兵は剣よりも長い
ゆらゆらと揺れる先端が静止すると、赤い光が撃ち出される。指よりも細い光は、外れることなくマキナの軍旗を次々と焼いていった。
その
星方教会の誇る精鋭だけあって、一度の攻撃では倒れない。赤い光を剣や盾で弾き抵抗を見せる。
それでも絶え間なく襲いかかる赤い光には勝てないようで、徐々に数を減らしていった。
しかし、聖堂騎士の信仰は恐ろしく、強力な魔導器の攻撃でも突進力は
不意に、前方で剣があがった。
ロウシェの剣だ。
挑発しているらしく、聖堂騎士団の団長――ザッシュがそちらへ馬首を
馬上からの
そう思っていたのだが、良い意味で裏切られた。
彼女は片手で構えた剣で、ザッシュの一撃を受けとめている。剣圧のせいか、幾分か腰を落としているようだが、問題なさそうだ。
ザッシュで隠れているのでロウシェの表情はわからなかったが、ザッシュの顔に噴き出した汗の珠を見る限りだと、彼女が押しているらしい。ロウシェは残った手を剣にかけると、受けとめていた剣を徐々に押しあげていく。
信じられない光景だ。
細身のロウシェが、巨躯を誇るザッシュの剣を押し返すとは……。
馬上のザッシュは、全体重を載せるように身を傾け、なんとか抵抗している。
双方の力が拮抗したと思った瞬間、ロウシェの剣が赤く輝いた。
次の瞬間、ザッシュの剣が半ばから二つに切断された。そのまま赤い輝きが聖堂騎士の身体を捉える。
全身鎧ごと斜めに斬り捨て、強敵と思われたザッシュは地に落ちた。
あまりにも番狂わせな戦いの結果に、聖堂騎士たちも動きをとめる。
「敵将、討ち取ったりぃーーー!」
ロウシェの明るくも
追い打ちを駆けるように、空から無数の火弾が降ってきた。
友軍の支援らしく、この一手が決定打となってマキナの軍は総崩れになった。ここぞとばかりに追撃を仕掛けたが、城壁から降り注ぐ矢に
両軍とも痛み分けという結果に終わる。
マキナの挟撃を退けたという点では勝利したが、これからは外――西にも注意を向ける必要性が出てきた。
裏切り者ラドカーン・ツッペを追い詰めたいが、そちらに兵を割くと王都攻めに響く。判断が難しいところだ。
駆けつけた友軍と合流する。
話にのぼっていたスレイド侯だ。自ら兵を率いて援軍に駆けつけてくれたという。
「魔法での支援、増援、ありがとうございます。侯のおかげで助かりました」
「いや、それほどでも」
スレイド侯は照れくさそうに頭を掻いて、功績を自慢するでもなく畏まる。
凡百の貴族であれば、これ見よがしに手柄を
「帰陣なされるのですか?」
「いえ、被害が大きいようなのでこちらに留まります。幸いなことに本体は人手が足りています。俺が抜けても大丈夫でしょう」
「よろしいのですか? 殿下たちから不満の声があがるのでは?」
「西門を手薄にできません。そこは理解してくれるでしょう」
「そうですか。それはありがたいことです」
陣形がととのったのを見届けてから、あとを部下に任せる。
スレイド侯とその配下を天幕に誘った。
「立ち話もなんなので天幕へ」
それから侯に気になることを伝えた。マキナの内通者が潜んでいる可能性だ。
「カナベル元帥、何やら嫌な予感がしますね」
「大体の察しはついているのですが、証拠がありません。お恥ずかしい話ですが、ベルーガも一枚岩ではありません。派閥争いの根は深く、
聞けば、危険を
彼と敵対している王道派の私が言うのもなんだが、侯のように人望もあり優れた人物が派閥の旗頭になってくれてばベルーガも少しはまともになるのだろうが……。
「ご忠告ありがとうございます」
自身の置かれている状況を理解しているのだろうか? 私は敵対派閥の人間だ。それなのに彼は同格の貴族である私に深く頭を下げた。
ああ、派閥に属していなければ彼のような
王道派を抜けられぬことが、これほど
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