第261話 問題だらけの救援部隊



 王都攻めをながめていたら、伝令の兵がやってきた。


「スレイド侯、大変です! 西門から敵が討って出てきました!」


「なんだって!」


 想定外の展開だ。籠城戦からの逆転を試みるならば、アデル陛下のいる北の本体を叩くと思っていたのに、まさか西とは……。新参元帥の率いる南門に兵を割いたのが裏目に出た。


「戦況は?」


「乱戦です。西門側が動く前に、裏切り者――ツッペの強襲があった模様。詳しくは存じませんが、撃退したのでそこまでの痛手ではなかったようですが……」


 伝令を走らせたであろうカナベル元帥も状況を把握できていないらしい。

 これはマズい。情報共有ができていない。軍事において部隊の情報把握は最優先事項だ。いわゆる敵を知り己を知れば……という惑星地球の用兵書にある定石。それを実行できていないということは、西はかなり混乱しているのだろう。


 西門を攻めているカナベル元帥の部隊が敗退すれば、包囲という優位は崩れ去ってしまう。


「いますぐ駆けつける。エスペランザ軍事顧問にも報告を」


「はっ、そのつもりです! ときにアデル陛下は?」


「前線に立っている」


「無茶な御方だ……では自分は伝令の任がありますゆえ、ここで」


 伝令が本来の仕事に戻っていく。


 俺も手勢を率いて応援に駆けつけたいが、あいにくと直属の部下はマリンに預けている。


 仕方なく、練度の低い新兵を引き連れる。


「これより西門へ向かう。かなりの混線が予想される。間違っても味方を殺すなよ。いいなっ!」


「お、おー」

「おー」


 返事に覇気がない。こんな連中で大丈夫だろうか……。


 とりあえず騎兵三千を従え、応援に向かう。

 情けない新兵は、実に多くの落伍らくご兵に身を落としていった。西門の軍が見えてくる頃には三千いた騎兵が、二千にまで減っていた。


 魔力は温存しておきたいが、ここはド派手に決めないと敵が優位になるだろう。


 ありったけの魔力を込めて、ある魔法を発動させる。


「〈火弾の雨〉」


 以前、大呪界の森で見たローランの魔法だ。

 あれを直列化・並列化して、さらに精度も高めている。持続時間や威力は低いものの、頭に当てれば混乱を誘えるだろう。


 実に千を超える火弾がマキナ聖王国の軍勢に降り注ぐ。


 もともと精度の低い魔法なのか、外した数は多かったがそれなりに効果はあった。やはり見た目は大事だ。空から降り注ぐ火弾にマキナの軍勢は浮き足立っている。


 イケイケ状態だったマキナの足がとまると同時に、ベルーガの反撃が始まる。


「いまだ、押し返せぇーーーー!」

 カナベル元帥の中性的な声が戦場に響きわたった。


 それを機に、西軍から凄まじい気勢があがる。

「「「おおおぉぉーーーーー!」」」


 頼もしい兵士たちだ。


 俺もそれに続こうとしたが、なぜか後続の歩みが遅い。

 気になって振り返ってみると、さらに兵が脱落していた。戦う前から半数の兵を失った計算になる。


 落伍らくご兵多すぎだろう。懲罰ちょうばつ部隊を設ける必要があるな……。


 そんなことを考えていたら、視界に見覚えのある人たちが映った。

 各種宗教団体のお偉方だ。


 星方教会のエルラン司教。

 ミーフー教のサ・リュー大師。

 邪教サタニアのカルシュワ仙師

 精霊神殿のミール神殿長。


 各宗派の代表が、強そうな高弟を従えやってきた。みな覚悟を決めた顔をしている。


 それに比べて、俺の部下たちは…………。


 先頭に立つ俺よりも、三馬身ほど後ろで突っ立っているだけ。これが本職の軍人かと思うと情けなくなってきた。

 悪いことだと思ったが、頼りない部下を脅しつける。


「おまえら、ここから先、逃げたら軍法会議ものだぞ」


「……ス、スレイド侯、これまでに逃げていった連中は」


「問答無用で軍法会議だ。本来なら言うべきことじゃないけど、各宗派の有力者の前だぞ。戦うべき者が逃げて、戦わざる者が立ち向かう。……おまえらずかしくないのか」


「……うっ」

「あの、俺、ここで抜けても」


「義勇軍ならまだしも、おまえら正規の兵士だよな。だったら覚悟を決めろ」


 ここまで言っても兵士たちはやる気を出さなかった。こいつらを頼るのは諦めた。

 滑稽こっけいな単機突撃になりそうだが、ここまで来ておいて戦わないのは無能を通り越してはじだ。


 新しい魔法剣をかかげて、

「いくぞ、総員突撃ぃィーーーーーー!」


「「「ぉー」」」

「「おおぉぉーーーッ!」」


 の鳴くような部下の声が、数でも劣る宗教団体の声に掻き消される。

 俺の初戦はなんとも恥ずかしい幕開けとなってしまった。遺憾だ……。


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