第259話 subroutine ガーキ_暗殺①


◆◆◆ ガーキ視点 ◆◆◆


「ガーキ、王都攻めが始まってるぞ」


 こっちは考えるので手一杯だってのに、イカサの野郎ががなり立てる。

「んなこたぁ、見ればわかる」


「どうするんだ? このままだと俺たちまで巻き込まれるぞ」


 肝っ玉のちいせぇ男だ。これなら、まだ鈍感なタガーズのほうがつかえる。オーク面の捨て駒を置いてきたのは失敗か?


 まあいい、あいつらには


 イカサとシャマ、そして何人かの失っても惜しくない手下を連れて、王都南に陣取るベルーガ陣営へ向かった。


 クソ眼鏡たち王族がいないのは確認済みだ。新任の元帥様のいる陣地、俺の顔は知っていても素性までは知られていないだろう。まあ、知っていたとしても元帥は買爵ばいしゃく貴族のベネル・エンコだ。金を稼ぐしか能の無い、悪徳商人。軍事や政治の経験も知識もないだろうよ。


 それにしてムカつくぜ! スッコの野郎がクソ眼鏡を殺ってりゃ、もっと大金をせしめられたものを……。


 まあいい、マキナで俺の功績は認められている。あと一つ手柄をあげりゃあ、領地持ちの伯爵様だ!


「おい、ベルーガの旗はちゃんと持ってきただろうな?」


「大丈夫だ、忘れてない。棒に括りつけてある」

 イカサが金になりそうな立派な旗をかかげる。


 こんなこともあろうと、ベルーガの旗を一枚残しておいて良かったぜ。


 薄気味悪い魔術師にも確認をする。こいつが作戦の要だ。成否如何せいひいかんで、今後の人生が変わるといっても過言ではない。


「シャマ、例の魔法、準備しておけ」


「はっ」


「あの魔導書は高かったからな。これで元が取れる」


「たしかに、あれは金を生む魔法でございますな」


「この仕事が成功したら、おまえにも褒美を出す」


「ありがたき幸せ。今後もガーキ様に変わらぬ忠誠を捧げます」


 よく言うぜ。俺についてくるのはからだろう。思ってもいない忠誠なんて口にするんじゃねーよ。


 軍旗を掲げて、堂々とベルーガ陣営に馬を進める。


「怪しい奴、とまれッ!」


 成り立ての兵士だろう。ろくに戦場を知らない兵士は、やたらとクソ真面目に仕事をする。おそらく、俺の来訪が予定にないものだから、どう判断していいか困っているんだろう。


 それにしても、つかえねぇ兵士だ。怪しいんなら身体検査や身分を証明する物の提示をさせればいいのによ……。


 面倒臭いが、家紋の入った短剣をチラつかせた。ベルーガにいた頃の短剣だ。


「おい、由緒ある子爵家の紋章だぞ。これでもまだ俺を疑うのかッ!」


「待て、紋章と家名を確認する。名前は?」


 チッ、面倒くせえ。


 名乗るのは得策じゃない。スッコの野郎が拷問にかけられて、俺の名前を白状した可能性もある。


 安全のため偽名をつかうことにした。


「俺は、東部にあるウェル家の当主だ。まさかとは思うが、我が子爵家のことを知らないとは言わないよな?」


「黙れッ! それと紋章の入った短剣は関係ない」


 あまり細かくしらべられると困るので、軽くおどしてみることにした。


「ここにいるエンコ元帥とは同じ派閥に属している。買爵貴族と名乗ったほうがわかりやすいか?」


「だからどうした。確認がすむまでじっとしてろ」


「こっちもひまじゃねーんだ。とっととエンコ元帥様に会わせてくれや。じゃないとカニンシンに言いつけるぞ」


「!!」


 買爵貴族の旗頭――カニンシンの名前を出した途端、兵士は顔色を変えた。


「俺の名は。ある御方の命令で秘密裏に動いている。それを邪魔立てするとどうなるか……わかるよな?」


「……あ、ある御方というのは」


「いいのか喋っても、貴族の俺は問題ないが、おまえら平民が知っていい名前じゃない。最悪、これだな」


 最後のほうは言葉にせず、首をき切る真似をした。するとどうだ。やっこさん震え上がって、奥歯をガタガタ鳴らしやてがる。


「…………く、首ですか」


「ああ、確実に飛ぶ」


「………………」


 ビビってまともな判断ができないらしい。手間のかかるチキンがッ!


「わかったらエンコ元帥の天幕まで案内しろ。急いだほうがいいぞ。ほかの兵士におまえの名前を聞く前にな……」


「ひっ! し、失礼しました! たっ、ただちにご案内致しますッ!」


 つかえねぇ番犬だ。タガーズでも、ぶっ殺してから確認するってのに。


 それから、立派な天幕に案内された。

 この兵士も相当の阿呆だが、エンコはさらに上を行っていた。適当にそれっぽい話をでっちあげるだけで、身体検査もなく天幕に俺を招き入れる。


 こんなカスが元帥になれるくらいだ。ベルーガもお先真っ暗だな。マキナに寝返って良かったぜ。


「ウェルと申したか。改革派の旗頭――カニンシン様から何を?」


 阿呆のくせに部下は優秀らしい。天幕に入りびたっているのは、頭が切れるか、抜け目が無いか、食えねぇ連中ばかりだ。


 間違いなく警戒されている。ヘタすりゃ殺されるな……。


 イカサはつかえるクソだが、ここでヘマされちゃ困る。

 予定変更だ。


 打ち合わせ通りに動こうとするイカサの腕を引き、後ろに下がらせた。


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