第258話 subroutine リュール_強敵
◆◆◆ リュール視点 ◆◆◆
血煙が舞い、
やむことのない命の大安売り、そこに貴族や平民といった身分の差は無い。
それが俺の目の前に広がっていた。
ああ、戦場はなんて
ほのかに青白く光る剣の軌跡が、こっちに近づいてくる。
馬に
風鳴りとともに刃が迫る。
ああ、俺も
そんなことを考えていたら、唐突に、衝撃が走った。
「リュール!」
ライフルを両手で構えたカマロが、俺を蹴り飛ばす。
「ぐあっ!」
カマロは短い悲鳴をあげると、その場で転倒した。側にはカマロの腕と、真っ二つになったマルチバレット式ライフルの
それが切断されている。断面が鏡のように綺麗なことから、切れ味の凄まじさが窺い知れる。
あの剣がやったのか?
続いて、実弾の
「リュール、退却や。カマロ引きずってさっさと下がり」
勝ち気な女一等兵――ブリジットが俺を足蹴にした。
「カ、カマロの腕は」
「そんなもんあとで生えてくる。ぼやぼやしてたら死ぬで」
ブリジットは叫びながらも、器用に敵を撃ち続ける。
「それは困る。医者として腕くらい繋げてやりたい」
ひょっこりと冴えない衛生兵――マッシモがあらわれた。ゆらゆらと頼りない足取りで、カマロの腕を探す。
「オッチャン、何してるんや、ぼやっとしてたら死ぬでッ!」
慌ててマッシモを追いかけるブリジット。
「お、あったあった。これで繋げられる」
呑気に声をあげるオッサンの背後に、騎影が現れた。黒髪黒眼の偉丈夫だ。
同僚の腕を拾うマッシモに剣が振り下ろされる。
「オッサン逃げろッ!」
慌ててライフルを構えて、レーザーを発射するが、男に弾き返されてしまった。剣の
この場にいる誰もが、マッシモの死を予期しただろう。
唐突に、落ち葉が風で舞い上がるような銀光が数条閃くと、同時にマッシモは前に飛んだ。
着ていた白衣が切り裂かれるも、致命傷には至っていないらしい。
「痛たたたッ! 何が防刃繊維だ! 欠陥品だぞこりゃ」
「援護してやる! オッサン、はやくこっちに来い!」
「言われなくともそうするわい」
斬られらしく、背中を気にしながら冴えない医師が走ってくる。
いつの間にか、あの偉丈夫は消えていた。それが関係しているのか、殺到していた敵兵も波が引くように減ってった。
駆けつけたホリンズワースが手近な敵を片っ端から始末していく。
どうやら生き残ることができたらしい。
危機は去った。ブリジットも合流する。
「どないしたんや、あのデカブツ。急に剣を取り落としたかと思ったら、そのままトンズラしよったで」
難色を示すブリジットに、ホリンズワースは顎をしゃくった。
「そこの衛生兵だよ。オッサン、斬られる瞬間、何回斬りつけたんだ」
数条の銀閃を思い出す。まさかマッシモが?
「三回。利き手の
そう言うベテラン衛生兵の手には一本のメスが握られていた。超硬合金すら切り裂くレーザーメスだ。
あんな短いリーチの武器で、相手の腱を狙って? そんなことできるのか?
俺と同じことを考えていたようで、駆けつけたホリンズワースが問いかける。
「オッサン、特攻持ちだな」
「一応はな。対人特攻だが、ZOCにも有用らしい」
「すげぇな。今度、詳しく聞かせてくれ」
「生き残れたら話そう。まずは生き残らんとな。無駄口を叩いたせいで死んだとあっちゃ、成仏できん」
「ちげぇねぇ」
敵が遠退き、ほっとしたの束の間。
今度は王都の敵が出てきたと一方通行の通信が入る。
攻城戦を仕掛けているロウシェ伍長からの報告。情報戦に特化した俺の通信アプリだから拾えた。
「敵は俺たちを
「今度は王都側かよ……」
げんなりとするホリンズワースだが、戦場でトラブルは付き物だ。こっちの敵襲を警戒して通信を飛ばしてきたのだろう。ま、敵を退けた後だが。
それにしても問題だ。この惑星の戦闘員は装備も質も低いものだと、たかを括っていた。
まさかレーザーを弾くような技術があったなんて……。それに軍支給のライフルを切断した、ほのかに輝く剣。アレもヤバイ。
「ホリンズワース、二人の面倒を見てくれ」
「リュール少尉、何をするつもりだ?」
「攻城組の応援だ。ブリジットを借りていくぞ」
「おいおい、また敵が来たらどうなるんだよ」
「その時は、マルチバレット式ライフルのグレネードをつかえ。足りなきゃこれもだ」
個人兵装のハンドグレネードを手渡す。マルチバレット式のおまけグレネードとちがって、威力がズバ抜けている。
「連れてくなら俺だろう。留守番ならブリジットでも務まるんじゃないのか?」
「戦う女性ってのは絵になるからな。野郎はお断りだ」
「くっだらねぇ理由だなぁ……」
「そうふて腐れるなよ。カレン少佐と相談したいが、あいにくと遠くにはぐれてしまった。そんなわけで指揮官不在。何かあったら、俺みたいなお飾り少尉よりも経験豊富なホリンズワース上等兵のほうが都合がいいだろう」
「そういうことにしといてやるよ」
封を切っていないタバコをボックスごと投げ渡す。尉官に支給されるちょっとだけ質の良いタバコだ。それを受け取ると、ホリンズワースは、
「しゃーねーな、貸し一つだぞ」
口うるさい上等兵も
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