第256話 アクシデント



 その夜。

 マキナの工作部隊によって、攻城兵器が破壊された。


 マキナの暗部――破滅の星メギドの仕業である。その破滅の星の面々もほとんど討ち取ったが……。


 そのことを教えてくれたエレナ事務官は、驚くこともなく普通にタバコをふかしていた。


「まさか、まだいたとはね。誤算だったわ。でも、暗殺につかわないようじゃ三流ね」


「それだけ攻城兵器が脅威きょういだった、てことじゃないですか?」


「だとしても稚拙ちせつだわ。私なら有力な将校を片っ端から暗殺させるけど」


「効率重視ならそうなるでしょうね」


「マキナ聖王国には大義名分も正当性もないんだから、なりふり構ってないで、サクッと暗殺でケリをつけたほうが安全よ。そうは思わない?」


「それは攻城兵器を造った職人を連れてきているから言えることで。新たに攻城兵器を造れなかったら、こちらはジリ貧ですからね。それを考えると妥当だとうな破壊工作では?」


「そうね。スレイド大尉の言葉にも一理あるわね。でも、いままでのマキナからすると稚拙なのには変わりないけど。私だったら一発逆転でアデルを狙うわ」


 たしかにエレナ事務官の案が現実的だろう。それなのに陛下が狙われた形跡はない。


「次に狙われるかも知れませんね」


「可能性は低いわね。破滅の星がもぐりこんでるってバレたんだから。相手もアデルの警護が厳重になるとわかっているでしょう。こんなお粗末な手を打ってくるなんて……ダンケルクの後釜あとがまが恐ろしく無能だったりして」


「その可能性はありえますね」


「でも敵の大将軍を取り逃がしたのは手痛い誤算だったわね」


「そうですね。俺もあの場でとどめを刺すつもりでだったんですが、思わぬ邪魔が入りました」


「過ぎたことを愚痴ぐちっても仕方ないわ。大尉はベストを尽くしてくれた、それで十分よ」


「そう言っていただけると気が楽です」


「そうそう、あの姉妹に注意しといて頂戴」


「カーラとティーレですか?」


「ええ、王都攻めに躍起やっきになっているから突出しないようにって……念押し程度に軽くね、軽く。こんな戦いで奥さん亡くしたくないでしょう?」


「はい、いますぐ注意しに行きます」


「四人の夫なんだから、奥さんの手綱をしっかり握っておきなさい」


「忠告ありがとうございます」


 はぁー、まさか上官から家庭のことで注意されるとは……。心外だな、俺って家庭をかえりみないタイプだと思われてるのか?


 問題の妻の部隊へ足を運ぶ。

 エレナ事務官の指摘してい通り、突出していた。

 飛んでくる矢を魔法で弾きながら、果敢かかんに攻めている。


「大将軍不在に、浮き足立っているのは明白。ここは大胆に攻めるべきです」

「そうは言うが妹よ。他の部隊との連携もある。こちらだけが優勢でもほかの城門が手こずっていては、こちらにまわされる増援が増えるだけだぞ」


「増援が駆けつけよりも先に城壁を奪えばいいだけのこと。姉上、私の考えに何か問題でも?」

はやる気持ちはわからんでもないが、焦っても良いことはない。慎重に進めよう」


「いえ、ダンケルク不在のうちに片をつけるべきです!」


 見事に姉妹の意見は食いちがっている。

 問題がなければ黙って立ち去ろうと思っていた野に……重症だ。


「二人とも何を言い争っているんだ」


「あなた様、お身体の具合はよろしいのですか? 無理をせず、ゆっくり静養してください!」

「おまえ様、無理をすると身体に障るぞ。しばらく静養していろ!」


 口論の仲裁ちゅうさいに入ろうとしたら、逆にこっちがおしかりを受けた。


「静養するけど、二人も仲良くしてくれ。言い争っているって聞いて、落ち着いてられないよ」


「すみません」

「すまん」


 二人がシュンとしたところで、確認だ。

「ところでエスペランザ軍事顧問の指示は?」


「…………」

「慎重に攻めよ、とのことだ。東西南北の連携を優先で攻めている。そろそろ東を担当しているリッシュの元に、ツェリが合流するだろう。その報告を受け次第、本格的に攻めに移るそうだ」


 ティーレが押し黙るところを見ると、足並みを乱している自覚はあるらしい。あまり深くは聞かないでおこう。

 しょげる妻の肩に手を置く。


「……すみません」


「いいさ、誰にだって失敗はある。軍事顧問の指示通りにしていれば間違いはない。くれぐれも無茶はしないでくれ。二人に何かあったらと思うと、おちおち寝てられないからな」


「今後は気をつけます」


「それを聞いて安心した。二人に任せるようで悪いけど、俺は傷を治すのに専念するよ」


「そうしてください」

「ここは任せろ」


 暴走しないよう釘も刺したことだし、撤退する。


 今度は攻城兵器を製造している現場を目指した。


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