第252話 一騎打ち前①
鍛冶師兄弟に頼んで、武具を新調した三日後。
アデル陛下は、ついに王都奪還に踏み切った。
国王自らが陣頭に立っての親征に士気は高く、南下するに連れて抗戦を続けていた貴族や義勇兵が加わっていく。
こうなることを見越して余分に糧秣を用意したが、それ以上に親征軍は
ツェリ元帥も、これといった
順調に事は運んでいる。あまりにも順調すぎるのでエメリッヒが困惑するくらいだ。
「おかしいな。私の試算によると、ツェリ元帥の率いる軍勢は一度くらい敵とあたるはずなのだが……」
「マキナの本国で問題でも起こっているんじゃないですか?」
「その可能背も無きにしも
「敵の戦略では?」
「というと」
「戦力を把握されないようにしているとか。戦場じゃあ普通にあるでしょう、威力偵察の部隊を見て敵本体の
「そうだな。もしくは増えた戦力を隠しているとか……」
「んー、でも連中そこまで頭がまわるでしょうか?」
「わからんぞ。裏切り者の元帥だったか……エクタナビアで恐ろしい攻城兵器をつかおうとしていたからな」
「死刑囚をぶん投げるってやつですか?」
「そうだ。まともな思考の持ち主であれば実行しない。柔軟な発想と片付けてしまえそれまでだが、よほどのことがなければ、あのような非人道的な兵器は使用しないだろう。なんというか倫理観を無視したリアリストが敵にいるようだ」
「その程度ならエスペランザ軍事顧問でも考えつくのでは?」
「無理だな。私ですらそういう発想はなかった。試し撃ちをしたであろう現場を見て、恐ろしくなったものだよ。想像できたとしても、まず実行には移さない。そんな狂気の研究だ。それを敵は戦時中ということにかこつけて大胆に実行した。どちらの裏切り者かは知らないが、勝つことに
「では王都を奪い返しても井戸に毒が放り込まれていたり、伝染病に
「そうなるな。しかし、真に恐れるべきはそれではない。そういった想定の外にある可能性だ」
「例えば?」
「王都全域に爆弾を仕掛け、我々が入った途端にドカン。最悪のシナリオだ」
「……それってテロじゃないですか」
「その通り、破壊目的のテロ活動だ。追い詰められた側のとれる最後の手段ともいえる」
今後はテロにも注意しないといけないのか……思いやられる。
気の重くなる話が終わると、ティーレとカーラが横に並んだ。
こちらの姉妹も気の重くなる要素だ。
今日のティーレの髪型はストレート。銀の鎧の下には、青と白を基調にしたスリットの深いドレスを着ている。宇宙古代史に出てくる芸術画――
カーラはいつもとあまり変わり映えしない胸元が大胆に開いた真紅のドレス。今日に限って、無数の銀輪がついた立派な錫杖を手にしている。
「あなた様、一騎打ち頑張ってください」
「妹よ。こういう場合は頑張れと言うべきではないな」
カーラは妹を
「おまえ様が無事であればいい。勝ち負けにこだわる必要はないのだからな。危ないと思ったら合図を送ってくれ、オレが魔法で支援する」
「姉上、神聖な一騎打ちを邪魔するとは王家の威信にかかわります。やはりここはラスティを信じて」
「王家の威信などどうでもいい。手を
「いいえ、信じていればこそです。きっと精霊様がお助けくださります」
「……妹はああ言っているが、いざとなったら合図を送れ。わかったな、おまえ様よ」
「あ、う、うん。二人を失望させないように頑張る」
「ほら、私の言った通り。ねえあなた様」
「ちがうな。きっとオレが心配していることに心を痛めてくれたのだろう。なぁ、おまえ様よ」
重い……愛が重い。
これで両者とも揉めないはず。
「それではあなた様、ご武運を」
「おまえ様、くれぐれも無理せぬようにな」
二人との会話が終わると、今度はホエルンとマリンだ。
ホエルンに衣装はいつもと同じだが、携帯している武器が物々しい。愛用している電磁、高周波の二本の鞭とは別に予備の鞭が二本。左右のブーツと腰に高周波コンバットナイフを差し、たすき掛けするようにレーザ式狙撃銃と、マルチバレットライフルを担いでいる。それ以外にもハンドグレネードを六個とガチで敵拠点を落とすフル装備だ。
マリンもいつもの大鎌とはちがう剣を
地球のモノノフやゴクドーがつかう伝統的ウェポンだ。カタログでしか見たことのない武器だが、男心をくすぐるカッコイイ剣だったので良く覚えている。扱うのには技術が必要で、切れ味はいいものの強度に難点があるとか……。
俺もカタナ欲しいな。強度があれば言うこと無しなんだけど……。
「パパ、鞭は伸ばせても最大二十メートルだから、それ以上離れないように注意してね。じゃないといざという時に助けられないから」
「大丈夫ですホエルン、クロとシロがいれば距離など無意味。いざという時は私が助けに入ります」
「そう、それならいいけど、マリンちゃんも無理しないでね」
「はい」
こちらの妻たちは仲が良いらしい。ほっとする。
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