第250話 王都奪還へ向けて



 試行錯誤を重ねて、新型の攻城兵器が完成した。


 それも三種類。攻城弓バリスタを改良した曲射式の多弾投槍機。曲射式の連射弓。最後にトンネル用の掘削機の回転比率を変えたドリルタイプの破城槌。


 おまけに高層櫓こうそうやぐらには宇宙軍仕様の自立型セントリーガンを据えてある。


 本当は爆弾ダイナマイトもつくってあるのだが、王都を無傷で奪い返したい王族の意向から今回は見送りとなった。


 これだけの兵器があるので、一騎打ちはお流れかと思っていたのだが、ちがった。名誉のためというか、国の威信のためというか、俺という貴い犠牲が用意された。


「あなた様ならば、憎きダンケルクを倒してくれると信じております」


 愛するティーレはこう言ってくれるが、その背後にいるルセリアを見るに違和感が拭えない。どうにも嵌められた気がしてならない。もしかして、カーラだけじゃ無くて、ルセリアも俺を亡き者にしようとか考えているんじゃないだろうな……。


 胃が痛い。

 いつものやつを……。


 最近量の増えた胃薬をかみ砕く。


 苦い薬を嚥下えんかして、発表された王都攻めの布陣を確認する。

 東西南北の街道に繋がる城門を包囲して、北側から攻撃を仕掛ける。北の城門一択だ。


 東には裏切り者のツッペがやってくる可能性もあるので、カナベル元帥に三万の兵を授け、ロウシェ伍長、ホリンズワース上等兵以下、宇宙軍の襲撃生き残り組をあてがった。ジェイクも一緒だ。


 南には失っても惜しくない革新派、王道派を配置している。宇宙軍の裏切り者に強襲されても痛くもかゆくもない人選だ。あとで言い訳されないよう、聖王国の増援を危惧して、兵士五万と多めにあてがってある。これで文句は言われないだろう。


 西はリッシュ。兵二万と少ないが、後続のツェリ元帥と合流する手筈になっている。


 最後に北側――王都攻めの主力、アデル陛下率いる五万。義勇軍や新兵が過半数を占める烏合の衆だが、練度の低さを補うべく装備は充実させている。三姉妹に、エレナ事務官、エメリッヒ、ホエルン教官、俺、リブ、マリンそれに工房の仲間たちと錚々そうそうたるメンバーだ。これに最新の攻城兵器が加わる。


 まさに鉄壁の布陣。そう思ったのでエメリッヒに具申する。

「俺、一騎打ちしなくてもいいのでは?」


「何事にも形式というものがある。圧倒的な火力で敵を蹂躙じゅうりんするのもいいが、それだと後味が悪い。後々の名誉を考えると降伏勧告のチャンスを与えたいところだ。となれば華々しい勝利が必要となってくる。スレイド大尉の一騎打ちがそれだ。勝利を期待している」


 簡単に言ってくれる。前情報だとマキナ聖王国を代表する大将軍――ダンケルクは俺が負けたバルコフ並かそれ以上の強さだという。

 要するに、俺が負けるような相手と戦ってこいと言うのだ。


 それって遠回しの死刑宣告では……。


「あのう、俺、自信ないんですけど」


「安心したまえ、君の能力スペックは把握済みだ。対ZOC戦、対人戦での特攻を持っているらしいじゃないか。〈鉄骨砕きボーンクラッシャー〉とう二つ名まである。精兵で二つ名持ちといえばかなりの実力者だ。大将軍くらい造作もないだろう」


「……格闘戦だけですけど。あと、造作もないは買いかぶりかと」


「買いかぶりではない。銃器をつかわない戦いならば、格闘技術で勝てるだろう」


「いや、剣とか弓とかはホント苦手でして」


「連邦式のナイフ格闘術があるだろう。それで対処すればいい」


「……実はバルコフって裏切り者の元帥にも負けまして、できればホエルン教官のほうが……」


「煮え切らない男だな。いいかね、第二王女殿下が倒してくれと嘆願たんがんした直後だ。君はその願いをふいにするつもりか? 将来を誓いあった仲なのだろう。それくらいの修羅場をくぐり抜けられなくてどうする」


「でも死んだら元も子もないですし」


「安心したまえ、誰も見殺しにするとは言っていない。最悪の場合、ホエルン大佐が割り込む手筈になっている。だから安心して一騎打ちを受けたまえ」


 気のせいか? 最後の部分が、安心して死んでこいと言っているように聞こえる。


 どうにかして一騎打ちから逃げたいが、胸元で指を組むティーレが視界の端に映った。死亡フラグというやつだろうか……。


 臆病おくびょうな性格よりも、彼女の前で良いところを見せたいという認証欲求が勝った。


「は、はあ。そういうことならいいんですけど」


 決定事項をくつがえせないのならば仕方ない。

 俺は渋々しぶしぶ一騎打ちを引き受けることにした。


 そうなると必要になってくるのは、命を預けられる相棒――武具だ。


 工房組――鍛冶屋兄弟に打診する。


「この魔法剣以上って造れるか?」


「まずは物を見せてみな」


「これだ」


 アドンにノルテさんからもらった魔法剣を渡すと、

「どれどれ……」

あんちゃん、俺にも……」


 兄弟はいままでにない真剣な眼差しで、舐めるように魔法剣をしらべる。


「無理じゃねぇけどよ。刺突特化の付与はできないぜ」

「俺らが得意なのは防御特化と斬撃特化だ。なあ兄ちゃん」

「おうよ。防御は特に自信があるぜ。冒険者相手だとそっちのほうが金になるからな」


 嬉しい言葉だ。まさに俺が求めていた答え、さすがは工房の従業員。毎度、厚かましく酒をたかってくるだけのことはある。


「それで頼む。あと形状だけど……」


 俺好みの、やや細身の剣を注文すると、兄弟はすでにあると持ってきてくれた。

 細身だが高価なミスリルをふんだんにつかった剣は軽く、扱いやすい。グリップの形状も申し分なく、手に馴染む。


 軽く振るう。


 剣に引っぱられる感じがない。相性は抜群だ。


「いいね。これをくれ」


「工房長、焦っちゃなんねぇ。肝心の魔法を付与してないぜ」


「そうなのか?」


「魔宝石とか持ってないか?」


「あるけど、魔石じゃ駄目なのか?」


「馬鹿を言っちゃいけねぇや。あのダンケルクとやり合うんだろう」


「そうだけど、なんで知ってるんだ?」


「みんなが噂してるぜ。賭けにもなってる」


 俺の評価が気になる。

「オッズは?」


「工房長が十倍、ダンケルクが二倍」


 倍率がぶっちぎりだ。相手は有名な大将軍、きっと知名度が倍率に影響したのだろう……そう願いたい。


「……売れ行きは」


「ダンケルク一択でバカ売れだ。大穴の工房長の人気は……ないな。今後もオッズは跳ね上がるかもしれないぜ。当たりゃ十倍。工房長も一口乗っとけよ」


 嬉しくない提案だ。そっと意識の片隅に追いやる。


「お、俺はいいかな。わざと負けたら八百長だって言われそうだし」


「そんなことないぜ。なあソドム」

「そうだぜ。


 どういう意味か知りたかったが、これ以上、心の傷を広げるのは得策ではない。俺は好奇心に蓋をした。


「一世一代の大仕事だ、最高の剣を鍛えてやるぜ」

「おうよ。だから安心して一騎打ちに臨みなッ!」


 兄弟はそう言うと、職人の背中で工房の奥へ行った。


 一騎打ちが終わったら賭けの胴元をとっちめてやろう。そして謝罪と賠償を請求する! 何があろうと絶対にだ!


 おっと、忘れちゃいけないことがあった。胴元にはダンケルクに賭けた連中の名前も吐いてもらおう。味方を信じない薄情者たちにはお仕置きが必要。上下関係の躾け、これ大事!


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