第248話 悪魔は誰だ①
連日、有力者をあつめて会議をしているが、王都攻めに関して
難航どころか
それというのも貴族たちが足を引っ張るからだ。王都近郊、南部からやってきた貴族の多くが、まだ奪還していない領地の分配でゴネている。
くだらない意見であっても提案するのならいいが、それすらない。ほとんどが自分の都合だけだ。
なんのための会議かわからない。
カーラも何度か注意したが、貴族連中は王族に責任をなすりつけている。
貴族の無能はそれだけではない。下手にエクタナビアの籠城戦で武功を立てたものだから、ここぞとばかりに貴族がエメリッヒに策を求めてくる。
実質、会議はエメリッヒの独断場になりつつある。
「軍事顧問殿、エクタナビアのように水攻めは?」
「良い策はありませんか、軍事顧問殿」
少しは自分の頭で考えろと言いたいが、戦略・戦術となると俺の専門外。なので貴族たちにきつく言えない。
「水攻めはマズい。王都には臣民がいる、成否にかかわらずアデル陛下の名声を落とす結果になるだろう。前にも説明したはずだが……」
遅々として進まない会議に、最近ではエメリッヒも
「ではどうなされるのですか?」
「一度、戦いに慣れた貴族や元帥の意見を聞いてから、考えよう。私一人で軍を動かすわけではないのでね。それに策があっても実行可能か確認せねばならない」
相変わらず返しが上手い。要領のいい軍事顧問様だ。
まずは派閥の旗頭や、元帥の意見を
リッシュが旗頭の開国派と穏健派は、攻城兵器での城攻めを提案した。
革新派の買爵貴族カニンシンは兵糧攻めで、能力至上主義の王道派クラレンス女史は王都を包囲しつつ南部の攻略。
こうしてみると、革新派と王道派は敵対しているように見えるが、その実、王都攻めを暗に否定していた。ツッペの裏切りが無ければ落ちなかったであろう難攻不落の城だ。攻め落とせないと思っているのだろう。
だから無難なことを口にするだけで、王都を取り戻す気ゼロ。
きっとエメリッヒの失敗を待っているのだろう。そうやってライバルを蹴落とし、のしあがってきた。ありそうな話だ。
それにしても、こんなときにも派閥争いとは頭の下がることだ。俺には恥ずかしくてできない。
いや、王都攻めを声高に叫ぼうならば、先鋒を任されると思い込んでいるのかも知れないな。情けない貴族様だ。多分、他人の失敗をなじるだけしか能がないのだろう。
馬鹿らしいので無視することにした。
陛下や三姉妹も同様の考えらしく、落胆のため息を隠そうともしない。
次は元帥たちの意見だ。
派閥の旗頭であるリッシュや手柄をあげたいセモベンテを除いて、派閥に属する元帥は、その旗頭と似たり寄ったりの提案だった。
王道派のカナベル元帥は旗頭クラレンスの顔色を見ながらも、敵を王都から誘い出す案を、エクタナビアを守るカリエッテ元帥の代理――メイド
「フローラ嬢、それはいささか無謀なのでは? 仮に城門近辺を占拠しても一時的なものだ。城門を開く前に制圧される」
「時を同じく……もしくは時をずらして東西南北の四方を攻めれば可能性はあるかと」
「マキナ聖王国の大将軍ダンケルクは有能な将帥だと聞き及んでいる。当然、城門を最優先で警戒しているはず。その案は被害が多すぎる」
「そのようなことはございません。王城にも兵を残しているでしょう。となれば可能性はあります」
「ふむ、前提からして破綻しているな。私ならば王城に兵を置かない。守るべきは城壁と城門で、王都内で暴動が起こったとしても、連中にとって些末なことだろう」
「糧秣はどうするのですか? あれを燃やされてはあとがありませんよ」
「城門城壁が破られないことが前提ならば簡単なことだ。糧秣を城壁に隣接させればいい。兵士が多く詰めている場所だ。警護も易く、無駄に兵を割かなくてもすむ」
「……それはエスペランザ軍事顧問だから考えつくことなのでしょう。敵もそうとは限りれません」
「そうだな。敵の布陣を確認していないので、私の考えも推論の域を出ない。糧秣を焼き払えるようであれば、フローラ嬢の案も一考の余地がある」
「一考とはどういう意味なのでしょうか?」
「たしかに敵の糧秣を焼き払うのは兵法の常道だ。しかし、その
「どちらにせよ、臣民は被害を被ります。兵の損失を考慮するならば私の策のほうが現実的では?」
「どうだろうね。それを煮詰めていくのが会議だと思うが」
「では軍事顧問のお考えは? そのように答えられるのですから、立派な策があるはず」
「まだ定まっていない。現状はリッシュ元帥の考えを推す」
「それこそ無謀なのでは? 攻める側のほうが圧倒的に不利です」
「兵器の性能いかんによって戦況は変わる。新型兵器を投入する予定だ。圧倒的に不利な状況にはならんよ」
「……そうですね。エクタナビアでも圧勝を収めたエスペランザ様ならばそれも可能でしょう。失礼な態度をとって申しわけありませんでした」
「いやいい、意見を交わすための会議なのだからね。お互いに考え抜いた策をぶつけ合って然るべきだ。謝る必要はない」
次にツェリ元帥の代理――アシェさんだ。
「私は地下からの潜入を愚考します。スレイド侯がトンネル事業に用いた技術をつかえば、早期の実現が可能かと」
「面白い提案だ。しかし却下する」
「なぜですか?」
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