第245話 subroutine マリン_黒歴史を見た妻たちの反応


◆◆◆ マリン視点 ◆◆◆


 精霊様のお導きとはいえ、私はとんでもない事実を知ってしまった。

 まさかサンプル枠で扱われているなんて…………。


 思い当たる節はいくつもある。決定的なのは結婚について……。ラスティ様は、頑《かたく》なに夫婦の関係をこばんでいた。きっとそういう目で見ていたのだろう。父へ送った手紙の内容を信じたい。

 だけど、受け入れられない自分がいる。


――マリン、なげくことはありません。ラスティはあなたのことをサンプルとは思っていませんから――


【ですが精霊様…………】


――何を疑っているのですか? サンプルとして扱っていたのならば、マリンはぞんざいに扱われていたでしょう。そのような扱いを一度でも受けたことはありますか?――


【いえ、一度もありません。大切にされています。わかっています。わかっています……だけど】


 このままでは第二夫人という地位から落とされてしまいそうで怖い。


 ティーレたちは、ラスティ様の悲しい過去に心を痛めているけど、いずれは…………。

 そう考えると恐ろしくなってきた。


 モヤモヤしていると、ホエルンが肩を叩いてきました。

「何を悩んでいるのマリンちゃん」


「いえ、別に……ちょっと考えごとをしていただけです」


「そうは思えないけど。……心の傷をえぐるようで悪いんだけど、安心なさい。パパはあなたのことをサンプルだなんて思ってないわ」


 ……やはり知られていた。見落とすことを願っていたのに、最悪の展開だ。


「仮に、それを理由にマリンちゃんを責める人がいたら、パパは激怒するでしょうね」


「そ、そうでしょうか」


「当然よ。だって妻にするって認めた娘のことをざまに言うんだから、間違いなく怒るわ。彼、ああ見えて激情家だから」


「…………」


「軍人のくせに優しすぎるのよ。ま、それが原因で軍にいたときは女性士官たちからいいように扱われていたけど」


 そういえば、ラスティ様の記憶に出てくる女性たちはみな揃って、薄笑いを浮かべていた。あんなに優しい方をなんで軽薄な笑みで見ているのか疑問だったけど、ホエルンの言葉を聞いて理解した。


 あんな無知な女どもが、彼を下に見ていたとは…………。万死に値する!


 もし見かけたら、こっそりクロとシロに始末させよう。


 ほっとしたところで仲間を見る。

 ティーレとカーラは揃ってポロポロと涙をこぼしていた。


「あなた様にそんな悲しい過去があったなんて……」


「ああ、心優しいおまえ様にオレはなんてことを……」


 四人揃って、悲しい夫の過去に涙していたら、ホエルンが唐突に、

「ところでその個人データ私にもくれない」


「「「えッ!」」」

 詳しく事情を聞くと、ホエルンはラスティ様の過去をそこまで詳しく知らないようです。


 なので、軍人だった頃のラスティ様の情報と引き換えに、個人データとやらを譲渡しました。


 気を取りなして、ラスティ様の過去を覗く。


 驚愕の事実が発覚する!


 敬愛している夫は、自己中心的で馬鹿で極悪人のクズのせいで家族を失っていたのだ!

 軍事的な理由をいいことに、ラスティ様に救うべく民と助けるべき仲間、そして妹を見殺しにさせたという。

 ホエルンが説明してくれるに、敗戦が色濃いという理由だけで、上官クズは命ほしさに撤退したとのだろうと。

 クズの悪行はそれだけではない。ラスティ様の妹のことを故意に隠していたのだ。

 のちに、応援に駆けつけていれば助けられたことを知らされ、事実を隠蔽されていたことに気づく。

 そのことが原因で、ラスティ様は上官に暴力を振るったらしい。結果、降格されて、どうでもいい部署へ飛ばされたとか。

 それなのに、クズの上官だけおとがめ無し。


 そんなこと許されていいのッ!


 久々に魔力を制御できなくなるほど激情してしまった。怒りのあまりに髪が逆立つ。

 ティーレとカーラも同様で、髪を逆立てている。どうやら二人は相当の魔力を持っているらしい。


「姉上、この男の首に賞金をかけましょう!」

「妹よ、言われるまでもない。この顔、しかと覚えたぞッ!」


 怒り狂う私たちとは対照的に、ホエルンは号泣していた。


「うわぁ~~~~ん、パパにそんな悲しい過去があったなんて。なんでいままで黙っていたのよぉ~」


 泣いたり怒ったりいろいろあったけど、妻仲間の結束は固まった。

『ラスティを幸せにする』を合い言葉に、共同戦線を張ることになったのは暗黙の了解です。


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