第230.5話 subroutine ローラン_覚醒秘話
ちょろい金ヅル――ラスティが西へ行っている間、アタシは魔法の修行をしていた。
お金の匂いがしたからである。
ラスティがベルーガの野戦基地を出立するのと入れ替わりにやってきた、ボケの入ったお婆ちゃま二人。なんと驚くことに生きた伝説――大呪界の魔女と名高いトリップ姉妹だという。
もうね、弟子入り一択。
一日でも弟子入りしたら、トリップ姉妹の弟子を名乗れる。魔法業界では誰もが欲しがる肩書き。多少の出費は覚悟の上! なんてったって、弟子の肩書きはお金になる! 土下座でも靴ペロでも、アタシなんでもするわ! だからくれ! 弟子の肩書きクレッ!
年下に泣きつくことに抵抗はあった。だけど、お金のため我慢した。
「本当にいいのですかローラン。あの二人はボケかかっていますよ」
「ボケててもいいから! 弟子にしてくれるように頼んで。お願い、ねっ、ねっ!」
「……ですがぁ」
黒髪金眼の少女は
だけどアタシに抜かりは無いわ!
「いいのかなぁ。マリンの知らないラスティの情報、教えてあげようと思ってたのにぃ」
マリンはピクリと動くものの、食い付かない。アタシより年下なのに手強いわね。
「仕方ないなぁ。とっておきの情報だったんだけど、聞きたくないのならいいわ。第二王女様に教えるから」
「…………」
かすかにマリンの右手があがる。この餌で間違いなかったようね。アタリの手応えを感じた! もうちょっとで釣れるわ!
「アタシの予想なんだけど、アレってラスティの願望よねぇ」
「……が、願望!?」
「いいのかなぁ~。マリンも知らない情報なのになぁ~」
「ど、どうして私の知らない情報だとわかるのですか」
食い付いてきた。何も答えず、にんまり笑う。
辛抱が限界に近づいているのだろう。マリンは引き結んだ唇を波打たせている。
「そこまで言って、だんまりは狡いです! 教えなさいローラン!」
「えー、でもタダってのもねぇ」
「……情報が本物だったら、トリップ姉妹の弟子になれるよう手配しましょう。それまでは保留です。それに、もし嘘だった場合は……」
「嘘じゃないわ。証拠もあるから」
「証拠!」
自信満々に言うと、マリンはぶつぶつ呟き始めた。
「証拠があるのであれば……………………でもローランのこと………………しかし」
煮え切らないので駄目押しする。
「証人もいるわ」
「……誰なのですか?」
「フェルールよ」
「フェルール?」
「ラスティの工房で働いている木工職人のガキよ」
「そういえば、そういう名前の人がラスティ様の工房で働いていましたね。ですが東のスレイド領まで聞きに行く手間がありますね。まあ、クロとシロがいるので大した問題ではありませんが」
「…………こっちに来てるんだけど」
「そうでしたか。あまりにも影が薄いので見落としていました。わかりました教えてください」
フェルールから強奪したフィギュアを取り出す。
「これがその証拠よ」
「それが何か?」
「見てわからないの? 衣装よ、衣装」
「赤いスカートを除けば私の着ている物と似ていますね」
「ラスティが彫った現物じゃないけど、同じデザインよ」
「…………ローラン、もっとわかりやすく説明してください。あなたは何を言いたいのですか?」
「まだわからないの。ラスティはこういう衣装が好きだってことよ」
「そ、その根拠はッ!」
「フェルールに聞いたんだけど、手持ち無沙汰のときに彫ってたらしいわ。見かけないデザインだけど、ささっと彫るってことはこういう衣装が好きってことでしょう」
「……!」
まあ、ラスティが好きかどうかは知らないけど、興味が無いってことはないでしょう。
魔族のお姫さまが不気味に笑う。
「ティーレにはまだ教えていないんですよね。でしたら」
アタシの右手に小金貨を握らせてきた。久々のお小遣いに上唇を舐める。
「そうね。アタシとマリンの仲だし、このことは二人の秘密にしてくわ」
「それでこそローランです」
こうしてアタシは、情報の口止め料とともにトリップ姉妹の弟子という肩書きを手に入れた。
話は逸れてしまったけど、尻尾と耳が生えたのは修行中に起こった事故が原因だ。
なんでも、アタシのご先祖様にそういった血を引く人がいたらしい。
まあ、どうでもいいんだけどね。有名どころの魔術師の弟子の肩書きが手に入れば……。
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