第241話 朝から痺れる妻……それが鬼教官!



 紆余曲折うよきょくせつあって、宇宙軍の士官の面々と王族が揃って朝食をとることになった。


 宇宙軍の者ならば士官、下士官を問わずの扱いなので、ホリンズワース上等兵もいる。


 我が家は、朝食の後に妻がシフトチェンジするルールになっている。これは俺でも覆せない鉄の掟らしい。


 ティーレの日が終わると、次はマリンの日が回ってくるのだが……。

 なぜかマリンの日に切り替わる朝食の席で、ティーレ以外のみんなから不審な目を向けられた。


「ん、俺の顔に何か?」


「スレイド大尉、あまり家庭の問題に踏み込むのは良くないとわかっているのだが、これだけは注意させてくれないかね」


「なんですかエスペランザ軍事顧問」


「鏡を見たまえ」


 鏡、それってどゆこと?


 わからないながらも、メイドの用意した鏡を見る。

 首筋から胸元までキスマークだらけだった。


 エレナ事務官に手招きされる。

「スレイド大尉、約束、覚えているかしら?」

 いままで聞いたことのない声音で言われた。


 鈍い俺でもわかる。夜の〝にゃんにゃん〟だろう。


「覚えています。俺は潔白、なんなら外部野のデータをしらべてもらってもかまいません」


「アクセスしても良いと?」


「はい」


 疚しいことはしていない。だからプライベートフォルダを公開した。

 プライバシーの侵害だが、帝室令嬢にケンカを売るほど馬鹿じゃない。従順な犬のように腹を見せたわけだ。


 結果はシロ。今回も無事に生き残れたことを実感する。


「まあいいでしょう。でもね、これだけは言わせてちょうだい。スレイド大尉、ここは遊びの場じゃないの。そういうことはよそでやってくれる?」


「あの、でも、これは俺の責任じゃあ」


「あなたは彼女たちを代表する夫でしょう。だったら言い訳なんかしちゃ駄目、わかった?」

 年下の帝国娘に言いくるめられる。


「エレナ宰相、あまり夫を責めなでください」

 頼もしいティーレが立ちあがるも、ほかの妻とエレナ事務官に瞬殺される。


「ティーレ、卑怯ですッ!」とマリン。


「さすがにじゃすまないわね」と鞭を慣らすホエルン教官。


「…………」カーラに至っては綺麗な氷でできた炎を出現させている。


「そういうわけで、ティレシミール王女殿下、今後は悪ふざけを控えるように」


「は、はい。申し訳ありませんでした」


 ちょっとばかり酷い仕打ちに、俺は異論を唱えた。

「みんなしてティーレをいじめることないだろう。彼女だって悪気は無かったんだ。初回なんだ、もう少し……優しくしてやって………………」


 マリンとホエルン教官から突き刺さるような視線を感じた。

 殺意てんこ盛りの双眸そうぼうの輝き。


「あなた様、もっと言ってやってください」


「……マ、マリンもホエルンもやり過ぎだ。次からは」


 問答無用で鬼教官の鞭が飛んできた。それは首に絡みつき、

「ちょ、本当に、ギャッ!」

 やめてと叫ぶよりも、電撃が先だった。


 電気ショックの余韻よいんでビクビクと痙攣けいれんする俺。


 そんな情けない俺を、カーラが優しく介抱してくれる。

「おまえたち、いい加減にしろ。愛していないのならオレがもらうぞ」


 今日の貴女、格好いいですカーラ様!


 しかし数々の修羅場をくぐってきたホエルン教官は手を緩めることなく、再度、俺の首に鞭を巻きつける。


「カーラ助けてっ!」


「当然のことッ! 〈尽きること無き冷気パペーチュアルブルー〉!」


「すべてを凍らせて時間を停滞させた……いい判断ねカーラ。でもまだ甘いわ!」


 ホエルン教官が反対の手に持つ鞭で氷を叩き割る。そして再び電撃が……。


「ぐわっ!」


「なかなかしぶといわね。スレイド訓練生、そろそろお逝きなさいッ!」


 出力を上げた鞭はなかなかに手強い。俺はまだしも、生身のカーラは大怪我確実だろう。


 慌てて彼女を突き放して、痺れるを食らった。

「あの、もういいですか……」


「……これ以上やると私が悪者になっちゃうから、今日はこれで許してあげる」


「これ以上やらなくても悪者です」


 心優しい鬼教官は無言で鞭を操作して、さらなる電流を流してくれた。


「夫のしつけは大事。みんな覚えておきなさい!」


 訓練生時代の暴力的な愛情は変わっていないらしい。安心した反面、勘弁してくれよと思った。

 もうやだこの人。


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