第239話 元帥就任②



 元帥の序列を教えてもらう。


 一位が筆頭元帥のノルテさん。二つ名は〈刺壊〉。一騎打ちでは最強の人だったらしい。ティーレを守るべく不慮ふりょの死をげた。


 二位が初耳のミュゲ元帥。マキナ聖王国との戦いで死亡。


 三位が驚くことにカナベル元帥。用兵家としては一流な反面、個人の武力は十人中最下位。


 四位がエクタナビアのカリエッテ元帥。文武両道の女傑。


 五位が裏切り者のバルコフ。こちらも文武両道、どちらかというと個人の武に秀でているらしい。


 六位に裏切り者のツッペ。カナベル元帥の劣化版。ただし個人の武は目を見張るものがあるとか。


 七位がガンダラクシャの腹黒元帥。こちらはカリエッテ元帥の劣化版。その代わり、悪巧みがうまい。


 八位がユゴー元帥。南の都市ハンザを居城にする文武両道の元帥。マキナの大軍を前に戦死。


 九位、十位にカルル、サイモンと続く。カルルはマキナとの戦いで戦死。王都に立て籠もっていたサイモンは、同僚であるツッペに殺害されている。


 十人中、五名が死亡。二名が裏切り。現存する元帥はたった三名。元帥の数は最盛期の三分の一以下にまで減っている。


 さすがに、このままってわけにはいかないか。士気にも影響するし……。


「それで新任の元帥は誰を起用するんですか?」


「だいたいの未来図はできているけど、受けてくれるかが問題なのよね」


勿体もったいぶらずに教えてください」


「いまから話すのはオフレコよ。私とエスペランザしか知らない極秘情報なんだから」


 知らされた極秘情報は頭の痛くなる人事だった。


 新たな元帥のうち四名は、王家の敵対派閥からだ。商人が多い買爵貴族の革新派から二名。才能至上主義の王道派から二名。


 古参の開国派からはリッシュ・ラモンド。王族支持の穏健派からはセモベンテ。


 残りは一名は空白。


 俺の名前が無かったのでほっとしてたら、

「今回は特例で王族も戦場に出るわ。頼りない新米元帥の代理ね」


「えっ、誰?」


「決まってるじゃない、私と三姉妹よ」


「…………あの護衛は誰が?」


「宇宙軍の優秀な士官たちよ。下士官も数に入れているから安心してちょうだい」


「ちなみに俺は?」


「スレイド大尉にはとっておきの任務があるの。とっても大切な任務よ」


 嫌な予感しかしない。


「まさか王都に潜入して内部攪乱ないぶかくらんとか」


「そんな安直なことはしないわよ」


「で、ですよねー」


 内部攪乱とか、死亡フラグしかない。



「えッ!」


 王城といえば、敵の立て籠もっている王都のど真ん中である。そこで旗なんて打ち立てようものなら……。


「いや、それ無理でしょう! 俺死んじゃいますって! そもそも王都のど真ん中からどうやって逃げるんですかッ!」


「じゃあ、未来の奥さんたちの目の前で、誰の護衛につくか選んでみる?」


 ……もっと駄目だ、間違いなく揉める。仲良く歓談する姿が思い浮かばない……。


「まあ、元帥になってくれたら、そういういさかいもないんだけど、スレイド大尉にその気が無いみたいだしぃ。私も無理強いしたくはないしぃ」


 好奇の視線を投げかけてくる。


 この帝国娘、相当の悪である。こともあろうに部下が苦しむ姿を楽しむとは!


「そんなわけで秘密作戦、やってくれるわよね」


 ……それも駄目だ。敵地のど真ん中で目立つって、完全に死亡確定のおとりじゃん。死ぬ、絶対に死ぬ。


 ここでの最適解は……。


「だったら俺、元帥になります」


「えー、そっちぃ。戦況が悪くなったらホエルン大佐を起用して、ブッパして圧勝しようと思ってたのに」


 それはそれでヤバい。あの鬼教官なら難なく敵将を撃破していきそうだ。そうなると手柄は総取り。功績を盾に、俺の頭を押さえにかかってくるだろう。

 年上の妻は嫌いじゃないけど、絶対に嫌だ!


「安心してください、全力で任務にあたりますから。決して失望させるような結果にはなりません」


「それ本当に言い切れるの?」


「実行しないと未来の嫁の尻にかれますから、死に物狂ものぐるいで戦います」


「……動機に問題があるけどよしとしましょう。それじゃ元帥就任の書類にサインをお願いね」


 羊皮紙をひらひらと見せつける。


 エレナ事務官の気が変わらないうちに、元帥就任の承諾書にサインした。


 これで無茶な特攻はなくなった。一安心っと。


「スレイド大尉、一つだけ言ってもいい」


「なんですかエレナ事務官?」


「あなたって、奥さんたちが言ってたように、


 ん? それってどういうこと?


 混乱していると、

「いきなり元帥就任を打診しても断られるだろうから、こうしなさいって言われたのよ。私は無理だって言ったんだけどね。まさかティーレ殿下とホエルン教官の言った通りになるなんて……」


 嵌・め・ら・れ・た、だとッ! それもよりによって最愛のティーレに!


 一瞬、カーラを最愛にしようか悩んでしまった。


 最愛だと思っていた妻にめられたのだ、そうもなるだろう。

 ともあれ特攻紛とっこうまがいの潜入作戦に比べればマシだ。なので我慢することにした。


 我慢することも大事。これ既婚者男性あるある…………。


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