第232話 王兄親子②



 この惑星に来てから、あちこちドローンを飛ばしているが、その聖光とやらは観測されていない。まだマキナの連中に王冠が渡っていない証拠だ。この世に一つしかない王冠は、一体どこかに隠されているのだろう。


 その場所を王兄は知っている……。


 この惑星に降り立つときに乗ってきた降下艇に行けば、惑星調査用の機材で王冠を探し出せるはず。しかし…………王兄より先に王冠にたどり着けるだろうか?


 ともあれ、この厄介な王族をどうにかせねば!


 そんなことを考えているうちに会議は終わった。

 それを待ち構えていたかのようにドアが叩かれる。


「入れ」

 カーラが許可すると、衛兵が入ってきた。


「カリンドゥラ殿下、西のかたよりディラ家の者が会いたいと」


「ディラ家の者? マーフォーク地方のディラ伯か?」


「いえ、ディラ伯の嫡男マリモン様です」


「嫡男か……ディラ家にはよく雲海を見に行ったものだ。ランズベリーとの関係もある。ちょうど王族会議が終わったところだし、面倒が省けるな。よし通せ」

 カーラが命じて、いったん近衛を下がらせる。


「あの田舎貴族か、風光明媚ふうこうめいびな土地といっても、ろくに資源の出ない山ではないか」


「叔父上は、あの地の重要性を理解していないようだな。あそこは古来より戦の主導権を握るため重要視された拠点だ。現に、三度にも渡るマキナの攻撃をしのいだ場所。西の貴族たちと連絡が途絶えていたので、どうなったか知りたいところでもある」


「ふん、戦など馬鹿のすることだ」


「叔父上、王族たる者、貴族の前では身を正すように」


「言われずともわかっておるわ」


 気に障ったのか、王兄はどこに持っていたのか、新たな鳥脚をとりだした。これから謁見だというのに、むさぼるように食べ始める。


 カーラが呆れて肩をすくめると、ディラ家の嫡男――マリモンが衛兵に伴われてやってきた。


「カリンドゥラ殿下、お久しゅうございます。ディラ家のマリモンです」


「久しいなマリモン、病弱だった貴殿がここまで健康になったとは、ディラ領はいまも自然が豊かなのであろうな。それにしても白かった髪に色が戻るとは……」


「マ、マキナの追っ手から逃れるために変装をしました。特殊な染料ゆえ、色が落ちず……」


「そうであったか。どうりで過去の面影と似ぬはずだ。顔かたちを変えての長旅、さぞかし苦労したであろう」


「これも殿下に報告に参るため、姿を偽る無礼をお許しください」


「かまわぬ、許す」

 マリモンはどこか卑屈ひくつな笑みを浮かべた。ディラ領で何かあったんだ?


「殿下、謁見を願ったのには理由がございます」


「みなまで言うな。わかっている、領地の奪還であろう。いずれディラ領も奪い返す。それまでここに滞在するがいい」


「はっ、ありがたき幸せ」


「下がってよいぞ」

 塩対応で追い払おうとするカーラに、マリモンが顔をあげた。

「じ、実は申し上げたきことがあります」


「細かいことは部下に言うといい」


「いえっ、大切な話です」


「……手短に頼む」


「ガーキという貴族のことをお知りですか?」


「そのような貴族、オレは知らn…………」


「ガーキ!」

 ティーレの声に、カーラの言葉が掻き消される。


 腕を切り落とされたことをまだ引きずっているのだろう。俺の手で始末してやりたいが、ティーレの恨みはそれ以上。

 王兄の手前ということもあって、あえて口を挟まなかった。


 怒りに身を震わせたティーレがマリモンに歩み寄る。

「ディラ伯、あの男を知っているのですか!」


 マリモンは再度、膝をつき臣下の礼をとる。しかし、その顔にはいまも薄気味悪い笑みが貼りついている。


 なんか引っかかるな……。


「私はまだ家督を受け継いでおりません。マリモンで結構です」


「そのようなことはかまいません。ガーキはどこにいるのですか! 兵の数は!」


「…………場所は」


 突如、大きな物音がした。ほぼ同時に怒号が響き渡る。


「この馬鹿者がぁ! 誰が輿を置けと命じたぁーーーッ!」


 王兄の重さに耐えきれず、輿を支えていた奴隷の一人が倒れたのだ。

 無様に転げ落ちた王兄は、物音を察知して部屋に入ってきた衛兵を呼びつける。


「そこのおまえ、こっちに来い」


「王兄殿下、何か」


 無言で衛兵のいていた剣を引き抜くと、そのまま奴隷を斬り捨てた。


「農民の分際で! 痩身そうしんのワシ一人支えられぬとは何事だぁ。一人脱落しただけで、輿を傾かせるとは言語道断! おまえも、おまえも、おまえもだぁ!」


 輿を担いでいた四人の奴隷を立て続けに斬った。


「うじゃうじゃと、どこにでもいやしい農民め! 貴様らのような虫ケラがいるから、いまだ王都が奪い返せんのだッ!」


 まだ息のある一人を足蹴にすると、血に濡れた剣を突き立てる。


「こいつめ、こいつめ、こいつめッ!」

 何度も剣を突き刺し、死者を鞭打った。


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