第223話 問題の多い報告会②



「イン・ロウシェ伍長。あなたは今日から少尉よ。振りだしに戻った感はあるけど、それだけの能力はあるでしょう」


「アタ……自分がですか?」


「そうよ。悪いけどあなたの過去覗いちゃった」


「…………」


「無能な軍部に愛想あいそを尽かさず従ってきたご褒美よ。今後は好きに行動なさい。軍事行動を無理強いしないわ」


「本当によろしいのですか?」


「私は帝室の女だけど、冷血ではないわ。そちらの事情も考慮しての決定だから気にしないで」


「ありがとうございます。ですが伍長のままでけっこう。いまさら少尉って柄じゃありませんから」


「そう、それは残念。……好きにしてもいいと言ったけど、先立つ物は必要よね。アテが無いのならしばらく護衛のバイトをしない?」


「最初からそのつもりだったのでしょう」


「まあね。でも、縛りつけたりはしないから安心して」


「心遣いありがとうございます。目的が見つかるまではこちらに厄介になりますよ」


 ロウシェ伍長――彼女の過去に一体何があったのだろう。気にはなるが、あの女性たちは迂闊に口を滑らすタイプとは思えない。向こうから話してくれるまで触れないようにしよう。


 次にカリム――カレン少佐なのだが、エレナ事務官は彼女が性別を偽っていたのを知っていたみたいだ。


「カレン少佐、いろいろ思うところがあるのは知っているわ。だけど帝国民なら私の指示に従ってちょうだい」


「……個人的な用事があるのですが」


「それについては協力するわ。私もを探しているから」


「! あの男をですかッ!」


「ええ、ウィラー提督を殺した男よ。軍法会議を開くまでもなく死刑。私はそれに立ち会う義務があるの。だから勝手な行動は慎んで頂戴」


「はっ、了解しました」


 これで終わりかと思ったら、最後の最後に名前を呼ばれた。


「スレイド大尉、こちらへ」


「えっ、あっ、はい」


「よくやったわね。あなたの活躍で仲間が九人も増えたわ。これは殊勲賞ものよ」


「あ、ありがとうございます」


「褒美を出すわ」


「褒美?」


 伯爵で領地を二つももらっている。これ以上の褒美なんてあるんだろうか? もしかして婚姻の件か!


「ティーレとのことですかッ!」


「あー、残念。将来的な話なんだけど、昇進よ。それも侯爵、もう領地はあるし問題ないでしょう」


「それって、今以上に責任がのしかかってくるんじゃ…………」


「そうなっちゃうけど、王族と婚姻関係を結ぶ上での問題が減るわ。悪い話じゃないでしょう?」


 められた気はするが、ありがたく頂いておこう。上司の印象は大事。でも一つ懸念が……。


「ティーレと離ればなれってことはないでしょうね?」


「それも踏まえての昇進よ。今後は二人で行動なさい。私なりの気遣いよ」


「ご配慮、ありがたくお受けします」


 それっぽく応えて、将来的な権利を頂いた。


 婚姻が認められなかったのは残念だったけど、悪くない。目標まであと一歩だ。心が軽い。


 それが顔に表れたのか、

「ニヤけてるわよ」

 とエレナ事務官にほほつねられた。


 改善された境遇に喜んでいると、凄まじい形相のカーラが肩で風を切りながらズンズン迫ってきた。


 今度はなんだ?


「ラスティ・スレイドッ! 貴様という男は厄介ごとばかり持ち込んできて……何をニヤニヤしているのだ! しでかした事の重大さがわかっているのか! ベルーガの情勢が定まっていないのに、あんなお荷物を二人も連れてきて、一体どういうつもりなのだッ!」


 耳がキンキンする大声で怒鳴ると、胸ぐらを掴んできた。


「よりにもよってあのグズを連れてくるとは何を考えている。なぜ途中で始末しなかった!」


「一応、王族ですし、ベルーガの今後のために悪評は控えるべきかと……」


「そのようなことはどうでもいいッ! あのグズどもがこれからしでかすであろうことを考えれば、悪評など些末なもの。民の非難を受け入れてでも始末するべきだった! それを……貴様はッ!」


 上体をグングン揺さぶってくる。


 ちょっと待ってくださいよ。王族の家庭事情なんて俺知らないんですけど。

 言いたいことは山とある。しかしカーラの怒りたるや凄まじくて切り出せない。

 あっ! そういえば王兄に迫られたとか言ってたな。それで怒っているのか? だとしたら、とんだとばっちりだ。でも、ここは紳士らしく耐え忍ぶとき。

 そう自分に言い聞かせて我慢していたのだが……。


「貴様は、しでかした事の重大さを理解してい…………うっ、ぐふっ!」


 突如、カーラが血を吐いて倒れた。


「姉上ッ!」

「姉上ッ、姉上ぇーーー」

「大姉さまぁッ!」


 アデル陛下と妹二人が悲鳴をあげる。


 とんでもない騒ぎになった。

 それでもカーラは身を震わせながらにらんでくる。


「……貴様……という…………男……は」


 俺のすぐ側で倒れたということもあり無視することもできず、彼女の具合を確かめる。


【フェムト、接触式の電磁スキャンだ】


――簡易ですか? それとも精密?――


【精密スキャンで頼む】


――了解しました――


 スキャンの結果、カーラは重度の胃潰瘍いかいようだと判明した。


 ああ、本当にツイてない。


 その後、騒動の責任をとらされカーラ付きの医者という役目を頂戴した。

 ほかにも適任者はいるだろうに……なぜよりによって俺なんだよ。


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