第222話 問題の多い報告会①



 まさか味方になってくれると期待していた王兄親子が最大の障壁になるとは……。


 俺とリブはがっかりしながら、ベルーガの拠点に戻った。


 てっきり以前いた野戦基地へ戻るものだとばかり思っていたのだが、俺の建てた城に拠点を移したとのこと。


 エクタナビアへ向かう前とちがって、俺の建てた城は成長していた。


「あなた様の築いた防壁は、いまや第二王都と呼ばれるほどの規模に拡張されています。農耕地、牧草地もあって王都と遜色ないほどです」


 興奮気味にティーレは教えてくれたけど、広さはあってもそれに伴う人口がなぁ……。

 などと考えていたら、かなりの人口がいた。

 解体された義勇軍や家を失った者たち、王都から逃げてきた者たちによって一大拠点に成長していたのだ。


「す、すごいなぁー」


「これらすべては、あなた様の成し遂げた偉業です!」


 目につくところだけでもエクタナビアの規模を越えている。

 事情を聞くと、南部と中央部から続々と避難民がやって来ているとのこと。


 もう、王都奪還しなくてもいいんじゃね。などと不謹慎なことを考えてしまったのはここだけの秘密だ。


「あとは王都だけです。あなた様ならばできると私は信じています」

 こうも期待されては、王都奪還を保留するなど口が裂けても言えないわけで……。


 いろいろ考えているうちに、立派になった仮の王城に到着した。


 第三王女の帰還なのでてっきり玉座の間へ行くのかと思ったら、アデル陛下の居室に通された。

 王様の部屋だけあって恐ろしく広い。

 個人の部屋なのに、ちょっとした晩餐会が開ける規模だ。


「おっ、大尉殿無事でしたか!」

 見覚えるのある顔――ホリンズワース上等兵が出迎えてくれた。


「ホリンズワース! 無事だったか!」


「おかげさまでなんとか」


「何名生き残った!」


「俺を含めて五名です。ほかは全員やられました」


「敵は? どこの部隊の連中だ」


「大尉殿、その話はあとでしましょう。まずはエレナ事務官に報告を」


「そうだったな。すまない、つい頭に血がのぼって」


「そうですよね。俺だって同じ気持ちだ。でもまあ、報告を先にすませましょうや」

 ホリンズワースになだめられ席に座る。


 ほかの生き残りにも会いたかったが、急な来訪に時間がとれなかったようだ。なので、タイミングの合ったホリンズワース上等兵だけ同席している。彼の話しぶりから察するに、どうやらエレナ事務官付きになったようだ。


 ホリンズワースからベルーガとマキナの現状を聞いていると、アデル陛下がやってきた。

 エレナ事務官と苦手なカーラも一緒だ。


 カーラの突き刺さるような視線に耐えながら、陛下に報告する。


「…………というわけで、第三王女殿下の到着は遅れましたが、王兄とそのご子息をお連れしました」


 王兄の言葉が出ると、カーラだけでなく、アデル陛下までもが嫌な顔をした。


 相当嫌われてるんだな……。


 アデル陛下とルセリア殿下が再会を喜び抱き合う。感動のシーンだが、カーラの視線が痛い。


 王族の短い歓談かんだんが終わると、今度は軍の連中で再会を喜んだ。

 主催者側のエレナ事務官が面識のあるであろうエメリッヒ名誉准将と力強い握手を交わす。


「エスペランザ軍事顧問、お久しぶりね。コールドスリープ区画がパージされたときは、もう会えないと諦めていたわ」


「あのまま死んでいたほうが後腐れなかったのだろうが、自身の悪運にはまったく驚かされる。ところでエレナ事務官、エクタナビアでカリエッテ元帥に爵位を頂いたが、今後、私はどういう扱いを受けるのかね?」


「そうね。エスペランザ准将さえよければ軍事顧問を続投で、形式的には私の下になるけど、それでもよろしくて?」


「拒否権はないのだろう。早期引退は無理そうだな」


「有り体に言えばそうなるわね。でも待遇は保証するわ」


「お手柔らかに頼むよ。運良く助かった第二の人生だ、心身ともにすこやかでいたい」


「善処するわ」


 エメリッヒとの再会を喜ぶと、今度はホエルン教官だ。

「自分は軍務教官を勤めているホエルン・フォーシュルンド大佐であります」

 鬼教官は宇宙軍式の敬礼をしてから、エレナ事務官の差し出した手を握る。


「ミス・フォーシュルンド、士官学校ではお世話になったわね。あなたが味方になってくれて心強いわ」


「微力ながら閣下のお力に沿えるよう尽力するつもりです」


「そう硬くならなくてもいいから、軍とは無縁なんですから気楽にいきましょう」


「はっ、ご配慮痛み入ります」


 エメリッヒには砕けた口調なのに、公式の場を気にしてか鬼教官の口調はやけに硬い。意外な一面を垣間見た気がする。


 その次にリブなのだが、先の教官のこともあって、こちらも硬かった。

 リブとルセリアの関係を知っているようで、エレナ事務官は最後にこう付け加える。

「男なら最後まで責任を取りなさいよ」


「ど、どういう意味でありますか?」


「隠しても無駄、男女関係のことよ」


「……一体誰から」


「情報元は秘密」


「…………肝に銘じておきます」


「わかればよろしい。今後の働きに期待しています」


 最後のロウシェ伍長だが、意外なサプライズが用意されていた。


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