第220話 そこに憎むべきリア充が!



 エクタナビアからの後発隊と合流してから、ベルーガの野戦基地へ向かう。


 第三王女ルセリアと良い関係になっているリブを見て、ティーレはなんとなく察したようだ。


「ルセア、良い相手と巡り会えたのですね」


「はい、ちい姉様」


「手続きはどのように考えているのですか?」


をどうやって排除しようか悩んでいます」


 アレって、まさか王兄のことじゃないよな……。


「ああ、アレですか。私もラスティと相談したのですが保留することに決まりました」


「そうなのですか! 千載一遇のチャンスだと思うのですが……」


 …………物騒ぶっそうな姉妹だ。暗殺なんて手を考えつくのはカーラだけじゃなかったんだ。


 話の内容がわからないのだろう、リブはどうでも良さげに林に入っていった。


 あとを追う。

「リブ、質問なんだけど、ルセリア殿下ってどんな娘なんだ?」


「どんな娘って、おまえ奥さんいるのに人の女に手を出すつもりじゃないだろうな」

 苦楽をともにした同僚は、元々悪い目つきをさらに悪くして言った。


「いや、今後は家族ぐるみの付き合いがあるからさ」


「ああ、そういうことか。ルセアは一言で言うと小悪魔だな」


 こいつ知ってたのかッ!


「まあ、言うまでもなくわかっていると思うけどな」


「そ、そ、そそ、そうだな。魅力的な小悪魔だな……」


「おまえ、いまルセアのこと馬鹿にしただろう」


「そんなつもりはない。ただ、小悪魔要素って苦手だなって」


「器のちっせぇ男だな。ラスティ、おまえはいつだってそうだ」


「す、すまない」


「謝ることはねーよ。だけど小悪魔っつってもいろいろあるからな」


「例えば?」


「普通の奴からしたらルセアは小悪魔だろうけどよ。死にかけてた俺のことを助けてくれたしな。そういう意味じゃ恩人だ」


「うんうん、で」


「それにもう


「ハァッ!?」


 リブの奴、年下のくせに手が速すぎるぞッ! 俺でさえ、まだキスと……む、胸しかしてないのにッ!


 無意識に手が出た。

 気の利く相棒がナノマシンで腕力強化をしてくれたらしく、脳天にゲンコツを落とすとリブは一撃でオネンネした。


「ヤバッ! フェムトやりすぎだぞ」


――安心してください、ちゃんと加減しています。リブラスルスには良い薬です。ここは捨てておきましょう――


【さすがにそれは駄目なんじゃあ】


――ラスティの紳士の誓いを揺さぶってきた相手です。ティーレに代わってお仕置きしただけのこと、問題ありません――


【……ティーレの外部野と並列化しているのか?】


――部分的には――


 なるほど、割り込んでくるはずだ。差し詰め俺がマスターで、ティーレがスレイブ……いや、もしかすると逆かも知れない。いいだろう、彼女のことも優先されるのだ、ここはよしとしておこう。


 それはさておき、リブを起こす。


 俺の分の怒りも込めて、二、三発ぶっ叩いたせいか、リブの頬はどんぐりを貯め込んだリスのようにれた。想定の範囲内だ、この程度なら誤魔化せる。


「……おふっ! 俺何してたんだ?」


「魔物がいて危なかったから蹴飛ばしたんだ。打ち所が悪かったようだな」


「……どんな魔物だった?」


地獄極楽蜘蛛ヘブンスパイダーかな? 強そうだったぞ」


 冒険者時代の知識が役に立った。それっぽい嘘をつくと、

「あの大蜘蛛か……あれは厄介だからなぁ。助かった」


「あの魔物はすばしっこいからな、レーザーガンを当てたら逃げていったよ」


「あの蜘蛛に捕まったら死ぬからな」


「そうなのか?」


「ああ、あいつの牙は、ナノマシンの身体硬化も貫く。素早い分ZOCより厄介だ」


 なんとなく予想していたが、やっぱりそうなんだ。


「俺も一度死にかけたからな、アイツの恐ろしさは知っている。ここは危険だ、みんなのところに戻ろう」


「そうだな。……ところでラスティ、相談だけどよ」


「な、なんだ?」


 思いっきりぶん殴ったのがバレたか?


 冷や冷やしながら話を聞くと、

「あの王兄親子、ここで始末しないか」


 なっ! まさかリブまで姉妹と同じことを考えているとは……。


「エメリッヒはなんて言ってた?」


「国際問題になるからやめとけって言われた。けどよ、あいつらがいたら俺ら結婚できないぜ」


「別に王族じゃなくても、駆け落ちでいいんじゃないか」


「ラスティ、おまえは良いよ。成功者なんだから金に不自由しないだろう。こっちは無一文だぜ。ルセアの護衛っていう仕事がないとプーだぞプー」


「でも、リブならきっと定職につけるよ」


「そうだけどよぉ、れた女は王族だぜ。普通に仕事してたんじゃ養えねぇだろう」


「じゃあ、爵位をもらって領地開拓したらどうだ」


「ゼロからスタートって無理ゲーだろう」


 愚痴の多い男だ。

 やたら、手を動かせ、サボるな、と怒鳴っていた上官を思い出す。嫌だった上官だが、いまならその気持ちがわかる。


「いっそのこと暗殺者になれよ。稼げるぞ」


「…………危ない橋は渡りたくないんだけどなぁ。だけど最悪の場合はそれもありうるな」


「俺を狙うのはやめろよ。一応、義理の兄弟になるんだからな」


「当たり前だろう。あのおっかない義姉に殺されるっての」


「それってカーラのことか?」


「いや、ラスティの奥さん」


「えっ…………」


「普段は優しいけど、怒らすと怖いんだってな。ルセアが言ってた」


「カーラの間違いじゃないのか?」


「年増のカーラは口うるさいけどまともらしいぞ。ティーレが一番怖いってよ」


 初耳だ。…………そんなことは……あるか。思い当たる節があるだけに否定できない。


「いや、ティーレは優しいよ。うん、凄く優しい」


はな」


「…………」


「まあ、善人なのは間違いないけど。正義感が強すぎるんだろうな、必要悪すら始末するタイプだ。しっかり手綱たずなを握っとかないと大怪我するぜ」


「注意する」


「俺も人のことは言えないけどよ。ルセアも小悪魔だから誤解招いて問題起こしそうで怖いんだ。ま、そういうところが可愛いんだけどな」


 だらしなく鼻の下を伸ばしてさ……俺よりも先に大人の階段のぼりやがって、コンチクショウ!


「保護欲っていうか、目を離せないところがいいんだよ。俺にだけ見せるアホっぽさがドストライクっていうか……」


 こいつ、完全に骨抜きにされてる。

 あのとがっていた宇宙軍時代のリブはどこへ行ったんだ!


 ったく、俺みたいに地に足ついて生きてくれよ。こっちはティーレのために頑張っているっていうのに。……ん? 俺も骨抜きにされてないか!


 知りたくないリアルを知って、けがれてしまった。


 とぼとぼと林を出たろころで、エメリッヒがメイド二人に指輪を渡しているのを目撃した。


 先を行こうとするリブを引き戻し、

「エメリッヒがメイドに渡してるのって、指輪だよな」


「ああ、エクタナビアでバイトしててな。頼まれて造った。純度ほぼ一〇〇%の銀だぜ」


「二つも造ったのか?」


「いや二〇個」


「二〇個!? なんでそんなに必要なんだ」


「俺製造、エスペランザ販売、儲けは山分け」


「…………おまえ商売してるじゃん」


「暇つぶしのバイトだよ、バイト。手間の割に儲けが少ないし、生活できん」


 ひょっとしてだけど、エメリッヒは二〇人の妻をめとるつもりではないだろうか……だとしたら神すぎる。どうやって短期間で美人メイド二人をものにしたのか、機会があったら聞いてみよう。


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