第216話 政略
ちょっとした行き違いはあったものの、エメリッヒから協力をとりつけることに成功した。
おかげで悩み事は減った。
ホエルン教官もクーリング期間を設ければ、かつての鬼教官に戻ってくれるだろう。
まずは一安心。
「そうだ。君にもあのことを話しておかないとな」
そう前置きすると、エメリッヒはエクタナビアの現状と将来について教えてくれた。
なんでも俺の知らない間に、同盟国であるランズベリー法国から援軍が来たらしい。その数五万。件の王兄はランズベリーの使者も兼ねていると知らされた。聞けば、王兄とその嫡男もエクタナビアに来ているらしい。
王族から支持をもらえるチャンスだ! リブは第三王女と仲がいいと聞いているし、上手くいけば婚姻賛同者が過半数を超える可能性もある。
あと少しでティーレと正式に……。
子供の時以来の高揚感を覚える。
まずはエメリッヒの報告を聞いてから、それから婚姻に関する相談をしよう。
「エスペランザ軍事顧問もとんだ無駄足でしたね。援軍が来るのなら、もう少し待っていればよかったのに」
「そうしたいところだが、どうやらちがうようだ。楽観視できない状況なのだよ」
いつも自信満々な軍事顧問だが、今日に限って苦々しい顔をしている。悪い情報じゃないのに……。
「なんで、ですか?」
「ランズベリーからの援軍は国境で待機していたらしい、あわよくば漁夫の利を得ようとしていたのだろう」
「両軍が戦って
「ああ、カリエッテ元帥の密偵が掴んだ情報だ。あながち間違いではないだろう。王兄を通じて、ベルーガの内情を知っているはずなのに無理難題をふっかけてきたからな」
「無理難題って?」
「援軍要請に応えた見返りだ、それもかなりの額になる」
「どう対処するつもりなんですか?」
「手つかずの鉱山がある、それの
「鉱山の! それってけっこうな規模なんじゃ……」
「安心したまえ。
「あ、そういうことか」
鉱石運搬の街道をランズベリーに造らせるわけだ。おまけにある程度の街も向こうが用意してくれる。採掘権の期限が切れたら、インフラ整備された土地となって手元に帰ってくるわけだ。鉱山採掘で得られる富はインフラ整備の手間賃ということになる。
期限付きとはいえ鉱山を手放すのは手痛いが、こちらは人員を割かずにすむ。しかも、本来インフラ整備にかかるであろうリソースをほかの作業に割り当てられる。なるほど損はない。むしろ時間を短縮できるのでありがたいくらいだ。
「うまい返しですね」
「そうとも言い切れないがね。ランズベリーがベルーガ侵攻を企んでいるのであれば問題は増える。まあ、その時は私も加勢するが」
「ってことは軍事顧問はエクタナビアに残るんですか?」
「いや、一度エレナ事務官に会いに行く。聖王国と裏切り者の軍勢を退けたあとだ、ランズベリーも当面は静かにしているだろう。その間に王都を奪い返す予定だ」
「それは心強い。となると向こうでもメイドを手配してもらうんですか? エレナ事務官はそこら辺はけっこう厳しいみたいですけど……」
「問題ない。カリエッテ元帥からすでに手配してもらっている」
「……美人メイド二人組ですか」
「そうだ。士官として育てるよう依頼されていてね。私の世話はついでだ」
「本当ですか? そうは見えませんけど」
「悲しいことだ。部下に信用されていないとは……」
エメリッヒが眉間に指をやる。
せっかくやる気になってくれたのに、ここで
「いえ、そういう意味ではなくて、二人もメイドを付けてくれるということは、カリエッテ元帥に気に入られたようですね、って言いたかったんです」
「そういう意味か。スレイド大尉の考えるように、気に入られたらしい。私もそれだけの手柄は立てたつもりだ」
「ええ、ですから、エレナ事務官もエスペランザ軍事顧問を厚遇すると思います。さらにメイドが増えるとなると面倒なのでは?」
「それに関して心配する必要はない。私の専属は彼女たちだけだ。ほかは不要」
相変わらず読めない人だ。俺だったら喜んでメイドさんたちを迎え入れるけどな……。あっ、ティーレとマリンに怒られるか。
う~ん、この惑星で自由に伸び伸びと暮らせると思っていたのに……女性に縛られるのって、思っていたよりも
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