第213話 内職



 長期休暇二日目は魔道具づくりにいそしんだ。


 それというのも要塞都市に風呂がなかったからだ。ここエクタナビアでは水は貴重で、衛生設備の多くはサウナが多い。宇宙のミストサウナよりもエコらしいが、その分、さっぱり感は薄い。俺的に言うと物足りない。


 なので、新しい魔道具の水源をつくっている。平行して浄化システム付きの風呂もだ。幸い技術見習いのリブもいるし、機械的なことは彼に任せれば大丈夫だろう。


「なあ、俺ら休暇のはずだよな。なんで工場の作業員みたいなことしてんだ?」


 同僚のリブから愚痴ぐちられる。件の小悪魔王女殿下には耳の痛い小言を言われたが、向こうもやるべき仕事があるようなので説教にまではいたらなかった。


 上からはにらまれ、下からは苦情をこぼされる。年配の尉官が、中間管理職はつらい、とぼやいていたのを思い出す。


 伯爵といえば、まあまあ上の貴族だ。そこまで出世したのに、こんな苦労があるとは……虚しい。


「なぁ、いつまでやればいいんだよ」


「今日だけだから、なっ、我慢してくれ。出立日をずらしてやっただろう?」


「丸一日かよ……っていうか、出発予定をずらしてくれって誰も頼んでねーし」


「じゃあ、いまから王女殿下に言ってすぐにでも出発するか?」


「待てッ、それはそれで困る。急に日程を変えるな」


「じゃあ手伝ってくれ。これはポイントを稼ぐチャンスでもあるんだぞ」


「ポイント?」


「そうだ、ポイント。王族は綺麗好きだ。ここで入浴設備を提供できれば、好感度はあがるだろう。間違っても下がることはない」


「…………」


 リブの奴、悩んでいるな。あと一押し必要か?


「ティーレ――第二王女にこの風呂を試してもらったときは、大喜びだったぞ」


「……喜んだだけだろう」


「ご褒美に抱きしめてくれた」


「!」


 食いついたッ!


 同僚はちいさな声で、悪くないな、と呟く。


 俺の勝ちだ。


 たまに愚痴をこぼすもものの、リブは作業を手伝ってくれた。


「ラスティ、一つ聞いてもいいか」


「なんだ?」


「おまえが結婚するって言っている相手、第二王女とはもう寝たのか」


「ゲフッ!」


 変な咳が出た。ティーレとの関係はまだリブたちに話していない。となると部下からか? いや、リブはまだ部下と接触してないはずだ。だとすると一体誰から……。


「その様子だとだな。やっぱりあれか、王族が相手となると面倒なのか?」


「ま、まあな」


「正式に結婚するのはハードルが高いって聞いてるけどよ。実際のところはどうなんだ?」


「そんなこと誰から聞いたんだ」


「おまえのAI」


「…………」


 信じていた相棒に裏切られるとは……。いや、個人情報は漏洩ろうえいできないようにセキュリティをかけていたはずだ。なんでバレた? ハッキングしたのか!


「どこまで知ってるんだ」


「おまえのAIからもらったこの惑星の調査データだ。結婚に関する調査記録のボリュームが多かったからな。それを見て思った」


「何をどう思ったんだ。って言うか、付き合っているって誰から聞いたッ!」


「簡単なことだ。ラスティはことがなかったろう。それが王女様にべったりだ。王女様の行く先々におまえもいた。付き合ってるって簡単に予想できたぜ」


「失礼な奴だな。それじゃあ、俺が軍事行動以外だとふらついているみたいじゃないか」


「…………もしかして自覚ないのか?」


「自覚って?」


「ラスティはさ、しょっちゅう遊戯室で知らない隊の連中と遊んでいただろう。


「…………そ、そうなのか? でも、リブだっていっつも一人だったじゃないか」


「俺の場合は人見知りだ。俺よか、おまえのほうが浮いてた」


「…………知らなかった」


「相変わらず軍事以外は鈍いな」


「…………返す言葉がない」


 あれこれ宇宙軍時代のことを話しながら作業を続ける。

 丸一日費やした甲斐あって、城と兵舎に行き渡る以上の入浴用魔道具が完成した。余りは医療施設に進呈しんていしよう。衛生は大事。


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