第210話 小悪魔 2024/05/12 訂正



 堅苦しい謁見えっけんも終わったことだし、バカンスだ。

 俺は久々の休暇を楽しむことに決めた。


 謁見した部屋から出て、まずは大きく伸びをする。


「それにしてもリブラスルス曹長も女を見る目がないわね」


「自分も同感です、大佐殿」


 ん? どういう意味だ?


 素知らぬふりをして、先を進みつつ聞き耳を立てる。


「ロウシェ伍長もそう思う?」


「はい。あれは絶対に小悪魔ですよ。それも質の悪い天然の」


「そうよね。女性に免疫のない男ならイチコロだわ。カリム……カレン少佐は?」


「私もそう思います。無自覚な小悪魔というやつでしょうか。悪意はないんでしょうけど、引っかかる男はあとを絶たないでしょうね」


 真相を知りたい! なぜそのような結論に至った!


 男としての矜持きょうじと好奇心に板挟みにされながら、一応、我慢する。そこにリブとの友情は無い。


「エスペランザ軍事顧問は大丈夫なのかしら? あの人もけっこうチョロそうだけど」


「それはありませんよ大佐殿、准将殿は既婚者ですから」


「それどこ情報?」


「コールドスリープから蘇生したとき婚約指輪を大切そうに首から下げていましたし」


「……意外ね。あの男がそんなことをするなんて」


「あの失礼ですがホエルン大佐、エスペランザ准将のことをご存じなのですか?」


「何度か、彼の下で働いたわ。部下想いのいい人よ」


「…………えっ、あの冷血漢が」


 カレン少佐の驚くところをみると、彼女も何度かエメリッヒの下で働いたらしい。


「ああ、可哀想なエスペランザ。彼ほど部下想いの上官はいないわ。ミュラー提督も人格者だったけど、それに負けず劣らずよ」


「初耳ですッ! その話詳しく!」


 いや、ちがうでしょう! そこはルセリア殿下の小悪魔について言及すべきところでしょう! エメリッヒのことなんてどうでもいいから話を本筋に戻してくださいよッ!


 俺の願いも虚しく、話はエメリッヒへと移っっていった。


 どうでもよくなったので、あとの話は聞いていない。


 小悪魔要素の見抜き方を知りたかったが、次の機会にしよう…………ああ、ティーレが小悪魔じゃないか非常に気になる。


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