第205話 subroutine ホエルン_復帰



 すべての記憶が繋がった。


 私が宇宙軍に入った理由も、宇宙軍で何をしてきたかも、そして生きる目標も。

 私の成すべきことは殺された家族の復讐だ。あの忌々いまいましい機械人間どもに殺された家族の。

 優しかった両親を殺された。私を逃がそうとした姉も殺された。

 勇敢な姉が私を逃がすとき、力強く抱きしめてくれたことはいまも覚えている。

 を目で追う。


 スレイド訓練生だ。

 ああ、訓練生はちがうか。彼はもう士官学校を卒業している。

 士官学校を出ているから少尉……いや順当に昇格していたら中尉、大尉になっているはず……。

 それにしても彼はなぜ私を抱きしめているのだろう?


 現状に至るまでの記憶の糸を辿たどる。


 ひどく頭が痛い。


 思考を切り替え、身体確認をした。スレイド訓練生が抱きついているせいで身動きはとれないものの、身体に損傷はない。

 しかし、視界に映る私の手は血に濡れていた。


 痛みがないのに不思議だ。


 今度はスレイド訓練生に目を向ける。

 スレイド訓練生はなんらかの攻撃を受けたようだ。血はそこから流れていたのだろう。


 いろいろとわかった。しかしまだ現状を理解できない。


 古代史に出てくるような古風な出で立ちをした連中に囲まれている。むろん、スレイド訓練生も変な出で立ちだ。


 誰が敵で、誰が味方なのか……。なぜここにいるのか。

 情報が錯綜さくそうしていてはっきりしない。


 そもそも私はここで一体何を?

 仮説を組み立てていると、鎧を着た老人が怒鳴った。背負うように剣を構えている。


「ホエルンは……この娘だけでも助けないと」


 この娘だなんて、そんなふうに呼ばれるのは何年ぶりかしら。軍に拾われたのが八歳のときだから…………この件については忘れましょう。


 彼は本当のパパではない。しかし、パパでもある。矛盾だ。


 彼のとった行動にはいろいろ問題があるけど、助けてくれたことに免じて今回だけは特別に許してあげよう。


 私は軍人としての職責をまっとうすることにした。


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