第200話 subroutine ホエルン_パパ
その若者――ラスティは私をホエルンと呼んだ。
それが私の名前なのだろう。
突如、意識が明滅する。
劣化した映像データのように、記憶の断片が流れた。
両親と二人の娘。
頭が痛い。
私――ホエルンは連合宇宙軍所属の士官だ。それだけは思い出せた。だけど、それ以外のことはまったく思い出せない。
彼は一体何者なのだろう? 私と彼の関係は?
「しっかり掴まってるんだ。揺れるぞ、馬から振り落とされるな!」
馬? 馬とは一体なんだろう?
「わかった」
とりあえずラスティの身体に腕を回す。
その腕を彼が
景色が流れる。
「大丈夫か? 振り落とされないようにしっかり掴んでッ!」
「うん」
圧倒的に
私はこんな
私は大人なのだ。それが駄々っ子みたいな態度をとるなんて……やるせない。
恥ずかしくて、情けなくて、とても嫌な気分になった。
ああ、なんてことをしているんでしょう。未婚の女が異性に身体を――胸を擦りつけるなんて。まったくもって
訓練生? 思い出せない。
ときおり理解できない単語が脳裏に浮かぶ。おそらく本当の私に起因するワードなのだろう。
唐突に、本能が糖分を欲した。
「パパ、お菓子が食べたい」
「……ちょっと待ってて」
なぜか私はラスティのことをパパと呼び、そんな私に彼は優しく接してくれた。
キャラメルを口に入れてもらって、ようやく本能が鳴りを
誰を殴るのだろう?
思考が乱れる。頭が痛い。
「うう、うぅん」
「大丈夫か?」
「大丈夫だから気にしないで」
「休まなくてもいいか?」
「我慢できる」
迷惑をかけまいと痛みに耐えていたら、
「総員停止ッ! ちょっとはやいけど休憩にしよう」
「またですか隊長」
「時間はたっぷりある。斥候も出しているし慌てずに行こう。焦ってもいいことはない」
ああ、また私のせいで……。
「大丈夫かい? いま具合を診てあげるからね」
ラスティはどこまでも優しい。子供みたいに我が儘な私を温かく守ってくれる。恩返しがしたい。記憶が
頑張って記憶を取り戻そう。迷惑をかけた分、パパに楽をさせないと……。
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