第181話 subroutine カリエッテ_問題発生



 城内が急に慌ただしくなった。


 バルコフの奴、まさか弟山の砦を攻め落としたんじゃないだろうね?


 ありえないことではない。

 部下の報告によると、山のふもとに展開していた部隊が強固な砦を築いたとらしい。規模のちいさな砦が山道を封鎖するように建ったと聞く。

 おそらく麓の守りを最小にして、一気に勝負をかけてくるのだろう。もう少し先だと思っていたが……見通しが甘かったようだね。

 ああ、でもツッペが裏にいるのならやりそうな手だ。あの男は小細工をろうするのが好きだからね。


 慌てても仕方ない。あせりは禁物、判断を見誤る。情報が揃うのを待とう。


 元帥たる者、部下の不安をあおるような真似をしてはいけない。第三王女が駆けつけてくれて士気は高いものの、油断はできない。アタシは焦燥しょうそう感に駆られながらも、執務室で優雅ゆうがに構えた。


 しばらくして、褐色かっしょく肌のメイド――ミスティが部屋にやってきた。

 報告はフローラの仕事だ。ミスティが来るのは珍しい。ミスティには魔族として身に宿した異能で広範囲の警備を任せている。真面目な娘だ。それが警備をすっぽかして、報告に来るとはね。どうやら悪いほうへ転がっているらしい。まったくツイてないね。


 こぼしかけた愚痴ぐちを飲みこみ、メイド姿のミスティの報告を待つ。

「カリエッテ様、侵入者です。アデル陛下からの使者だと申していますが、ラスティ・スレイドなる聞いたことのない貴族の名を出しています。敵の放った密偵やもしれません。如何いたしますか?」


 どこへ出しても恥ずかしくない淑女に育った魔族の娘は、頭を垂れながらも鋭い目で訴えかけてくる。


「警備は?」


「念のため、フローラとスクアの両名が警備についております」


「なら問題ないね。で、その密偵はどこから来たんだい?」



「空からッ! そりゃ、おったまげたね。そんな目立つ密偵なんて聞いたことがないよ」


「前例がないだけで、油断はできません」


「おまえの心配もごもっともだ。ここにもっているのもきてきた。その馬鹿どもを見に行こう」


「暗殺者かもしれません。不用意に近づくのは得策とは思えませんが」


「武器は取り上げたんだろう。だったら問題ない」


「ですが……」


 優しい娘だ。老い先短いばあのことを気遣ってくれている。だけどね、アタシはまだそこまでけちゃいないよ。


「おまえも疲れただろう。しばらくお休み」


「…………」


「可愛い顔が目の隈で台無しじゃないか」


「私の肌は黒いので、目立ちはしません」


「何を言ってるんだいこの娘は……ほとんど寝てないんだろう。戦は長い、休めるうちに休んでおきな」


「畏まりました」

 一歩下がると、ミスティは異能の力で姿を消した。


 元帥としての職務をまっとうすべく、アタシは侵入者が放り込まれている牢へ向かった。


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