第162話 subroutine ロレーヌ_善意の見返り



 ああ、神よ。

 ラスティ・スレイド様との出会いに感謝します。


 ラスティ伯は主神スキーマ様をたてまつる教会を建ててくれると約束してくれました。

 それだけではなくスキーマ様の御姿を自ら造形されました。大聖堂にある立派な彫像と遜色そんしょくない……いやそれ以上の像です。

 造りこそ木彫りと質素ですが、薄くのばした金箔で装飾してくれました。神々しくも雄々しいスキーマ様に相応しい御姿です。

 スキーマ様に失礼のないよう仮のお住まいにも心を砕いてくださり、立派な二階建ての教会を用意してくれています。


 それだけでも素晴らしい行いなのですが、ラスティ様はめる人、貧困ひんこんにあえぐ人々に救いの手を差し伸べています。国家間の争いに加担しているものの、その本質は善です。その証拠に、人々に惜しげもなく富を分配しています。


 私もラスティ様に助けられた多くの者たちの一人です。名前すら知らない私のことを、いたく気にかけてくれていました。野盗たちにけがされた私を軽蔑けいべつの眼差しで見ることなく、心配してくれました。慈愛に満ちた素晴らしい御方です。


 私は、ラスティ様のような敬虔けいけんな信徒を見たことがありません。


 まさに聖書に出てくる聖人、使徒のような御方。きっとスキーマ様が遣わしてくれたのでしょう。


 本来であれば大々的にその貢献こうけんを称えるべきなのですが、ラスティ伯は魔族とも手を取り合う器の大きいお方。問題です。


 いまの星方教会は軋轢あつれきが生じています。

 信仰の在り方について、二層に分かれているのです。

 主神スキーマ様の威光にひれ伏さぬ者を悪とする、人外排斥じんがいはいせきかかげる主神派。

 経典に従い、すべての者を分け隔てなく守護すべきと唱える経典派。


 その軋轢あつれきは無視できぬほどに膨らんでいます。

 マキナ聖王国がベルーガに攻め入ったのもその影響でしょう。

 現に、あの国の大聖堂を任されている枢機卿は主神派ですから。


 この先ラスティ様に試練が降りかかるでしょう。そのときは彼のために力になりたいと思います。


 我らが神――主神スキーマ様、どうかお導きを……。


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